
外国人拘束――一家を離散させるな
朝日新聞
2003年11月9日
社説
東京の下町で、ある外国人一家に起きていることに目を向けてほしい。
日本人の経営する小さな運送会社で11年間、まじめに働いてきたミャンマー(ビルマ)人が、東京入国管理局に不法滞在で拘束された。先月末のことだ。
88年に来日し、98年には退去強制令書が出された。軍事政権が続く祖国の民主化運動に加わっているため、帰国すれば迫害を受けるおそれがあるとして難民認定を求めたが、退けられた。
妻は偽造旅券で入国したフィリピン人。小学4年生と幼稚園児の子どもがいる。子どもたちは日本語しか話せない。
今回の拘束で、父親が母国に送り返される可能性が高まった。母親と子どもにも退去強制令書が出ており、この一家は離ればなれになりかねない。
職を持ち、日本人の友人に囲まれ、ささやかな家庭を築いてきた。厚生年金にも入り、住民税も納めてきた。そんな人たちを、不法滞在だからという理由だけで追い出すのはあまりに酷ではないか。
「彼は会社にとってなくてはならない存在。子どもたちの将来も心配だ。入管当局のやり方は同じ日本人として恥ずかしい」 そう語る勤務先の社長は、拘束を解き、在留資格を与えることを法務大臣に求める署名運動の先頭に立っている。
私たちも同じ思いだ。
今回の措置のタイミングも気になる。
一家は入管当局を相手に退去強制令書の取り消しを求めて裁判を起こしていた。父親の身柄が拘束されたのは、訴えを退けた二審判決が出た直後のことだった。
外国人の引き起こす犯罪が増え、不法滞在との関連も指摘されている。犯罪の温床になっているようなケースには厳しく対応していかなくてはならない。
だが、外国人犯罪を懸念する空気に乗って、様々な事情をもつ不法滞在者を十把一絡げに扱うような入管当局や、それを追認した司法のやり方はうなずけない。
例えば、犯罪組織とのつながりが疑われる外国人と、このミャンマー人一家のように長年、問題を起こさず暮らしてきた人たちを一緒にするのはおかしい。日本での生活ぶり、家族とりわけ子どもの利益を考え、一定の基準に達すれば在留資格を与える。そうしたルール作りを急ぐべきだ。
似たような境遇にある韓国人が退去強制令書の取り消しを求めた裁判で、東京地裁は「長い間、善良な市民として生活の基盤を築いていることは、特別在留許可を与えるうえで前向きに考えるべき要素だ」という見解を示した。その通りだと思う。
高齢化と人口の減少が一緒に訪れるこれからの日本社会で、外国人に頼まなければならない分野は増えていくだろう。
一家がどうなるか、この件をどうするかは、私たち自身にかかわる問題であると同時に、日本社会を映し出す鏡にもなる。
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