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移住労働者のリプロダクティブ・ヘルスに暴力と恐怖が及ぼす影響

――熊から逃げたと思ったら、虎に向かって走っていた(シャンのことわざ)

バーマ・ディベート誌
2000年秋号
テレーズ・カウエッテ

 ビルマ兵が度々村にやってきて、男性と女性に無理やり物資を運ばせました。とても重い装備でした。兵士は歩き方が遅い人や、隊列についていけない人をみな殴りつけました。女性の扱いは非常に悪く、夜には私たちを強かんしました。兵士たちは私たちの村から女性7人を連れていきました。全員を強かんし、1人の少女を3日間帰しませんでした。その7人の中には、私の姪2人がいました。その出来事の後、私は姪や他の人とともに村を離れました。(シャン人、女性、22歳、チェンマイの建設労働者)

  私はタイの警察署から何人かの脱出を手助けしようとしました。警察署に出向いて、2人の釈放のために13,000バーツを支払いました。そこにいた人々が女性2人を助けるように私に頼んだのです。その2人とは母親とその娘で、警察官と年配の受刑者が2人を常に強かんしていました。娘はわずかに17、8歳で、とてもきれいな子でした。しかし私が助け出す前に、2人とも首を吊って亡くなりました。他にも警察の取調べを受けている少女4人が同じような状況にあるとのことでした。こうしたことが毎日起きているのです。(モン人、男性、23歳、マハチャイの労働者)

イントロダクション

 ビルマからタイへの移民の大量流入は、アジアでも最大規模の移民人口を形成する。現在ビルマ人移民(訳注:以下「ビルマ人移民」は、タイに住むビルマ出身の移民の総称の意味で用いる)百万人以上がタイ国内で生活している。ビルマ全土から様々なエスニック集団出身の、様々な言語を話す人々が移住しているため、移民同士の間ですら、共通の言語が存在しない状況が度々生じている。彼らの共通の経験は恐怖と暴力であり、それは生活のあらゆる側面に影響を及ぼしている。

 1998年に、マヒドン大学人口・社会調査研究所(Institute of Population and Social Research, Mahidol University)の指導の下で「リプロダクティブ・ヘルスおよびセクシユアル・ヘルスの視点からの調査:タイに住むビルマ人移住労働者が抱く懸念と現実」が行われた。最近発表されたこの調査結果によれば、移民は暴力を恐れ、安全に暮らすことを求めているが、そのためには健康管理を行う際の選択肢とその判断も含めた、彼らの生活のほぼすべての側面が関係している。

 この研究では、現在ビルマ国内にあるきわめて限定的な公共医療サービスだけでなく、公共医療サービスや医療教育がまったくないにも関わらず薬だけが簡単に手に入るといった、タイに住む移民が直面している数々の問題も強調されている。結果としてビルマの出身者は簡単な治療があれば助かるような状態で苦しんでいるが、こうした事態はタイとビルマの国境の両側では健康管理が危機的な状況にあることを物語っている。タイにいるビルマ人移民のほとんどは不法滞在であり、通常はタイ語での意思疎通を行うことができない。このため移民は、雇用者、政府当局者、時には他の移民からの暴力や虐待に対して無防備な状態に置かれることが多い。暴力と搾取への恐怖が重なった経験をすることによって、移民自身が公共医療サービスをほとんどあるいはまったく選ぶことのできない真空地帯ができあがるのだ。こうした現実と、文化上の習慣や健康に関する基礎教育、リプロダクティブ・ヘルスに関する教育の欠如が相まって、高い乳幼児死亡率、人口移動率、望まない妊娠、危険な中絶、(HIV/AIDSを含む)性行為感染症を引き起こしている。

政府の政策

 調査結果の分析のための背景情報を得るには、ビルマとタイ両政府の政策および住民管理の方法が、移民の流入と、ビルマ出身者のリプロダクティブ・ヘルスの状態にどの程度直接的な影響を与えているのかを調査する必要がある。政府の政策と、その下で人々が生活している諸条件を認識することは、ビルマからの移民がなぜ、どのように発生するのかを理解するうえで決定的に重要である。

ビルマの移民発生

 ビルマの一党支配体制は、その権力と政策に反対するあらゆる反政府勢力を弾圧しながら、ほぼ40年間続いている。なかでも少数民族は、内戦と、国家中心的な(文化の多様性を受け入れないだけでなく、単一の国語、文化、宗教を強制する)政治体制が引き起こす激しい暴力と弾圧に直面している。ビルマ政府はさらに、どのような形であれこの政治体制に対抗する多くの人々に嫌がらせを行い、逮捕し、時には殺害さえ行ってきた。ビルマ国民を抑圧してきた暴力と政策によって、数百万人が国内避難民となるか、国境を越えて隣国へと逃れている。

 1987年、国連はビルマを低開発国(LDC)に指定した。「ビルマ式社会主義」として知られるビルマ政府の方針は、他国の影響から自国を隔離する孤立化と、数十年に渡る貧困の深刻化を招いた政策を推進したに過ぎない。1988年に、民主化運動の弾圧を行い、それに伴う国際的な制裁措置を受けたビルマ政府は、「対外開放貿易」を方針とし、外貨、国境貿易と対外投資の獲得を目指した。こうした政策によって、国境が正式に開放され、特に中国とタイとを相手にした貿易を後押しするインフラの拡大が行われ、その結果、移民の発生を引き起こした。しかしビルマ政府は地元当局の判断だけで執行できる、移動制限に関する厳格な法令を現存させている。この法令によって、抜け道を使って国境を越えようとする商人や移民が、逮捕されあるいは暴力を振るわれる可能性がますます高まっている。

 ビルマ政府は「対外開放貿易」政策を推進するため、木材伐採、ルビー採掘、石油採掘、漁業権を売却してきた。こうした投機的な事業の実施のため、あるいはその事業で職を得るために行われた、これらの権利売却もまた、大量の移民と人口移動を引き起こした。

ビルマのリプロダクティブ・ヘルス政策と現実

 ビルマで妊婦が発病あるいは死亡する割合は世界的に見て非常に高い。世界保健機関(WHO)とUNICEFは1997年、ビルマの乳幼児死亡率を10万人当たり500〜800人と推計している。ビルマでは中絶は非合法であり、避妊だけが1991年に合法化されている。ビルマ保健省と世界人口活動基金(UNFPA)は1999年に、妊婦の直接の死亡原因の3分の1ないし半分が危険な中絶によるものだと推計している。この妊婦死亡率の高さを考慮に入れると、全国320郡中209郡で基本的な公共医療サービスが受けられるビルマでは、母性保護が全国的に緊急課題となっている。保健省とUNFPAは1994年に、基本的な公共医療サービスが提供されている郡であっても、それが住民の48%にしか行き届いていないことを認めている。1991年に政府は「出産間隔拡大」計画を開始し、1999年にはその対象地域を全国320郡中117郡に拡大した。この事実が明らかにしているのは、ビルマでは安全で効果的な避妊への需要が満たされていないだけでなく、公共医療サービス、とりわけリプロダクティブ・ヘルスに関する物資、医療行為、情報を住民が十分に受け取ることができないことだけでなく、その質と提供の仕方にも様々な制約があるとの認識が存在することである。

 現在のところ、リプロダクティブ・ヘルスに関する政策やプログラムには、ビルマ全土で大規模に発生する移民が考慮に入れられていない。このことは、妊婦が発病あるいは死亡するリスクを持続させるだけでなく、ビルマおよび近隣国の住民の大部分の健康一般をも(訳注:悪い状態のままに)据え置くことになるのである。

未登録のビルマ人移民に対するタイ政府の政策

 タイ政府の未登録のビルマ人移民に対する政策は過去30年間で激変したが、これは国家安全保障とタイとビルマの関係改善が原因である。1970年代から80年代にかけて、ほとんどの移民はタイ国境に定住した。88年のビルマ政府による弾圧と国境開放政策によってビルマから数十万人が国境を越えてタイに避難したが、それ以降はタイの各地に散らばっている。非熟練労働への需要を考慮に入れたタイ政府は、4回の閣議決定(92年〜98年)を行い、移住労働政策により多くの柔軟性を与えた。これらの決定は基本的に、雇用者に対し、産業や地域に基づき特定の職種で働く移民を合法的に登録することを許可するものだった。しかしこの閣議決定の実行は、登録を行わず、タイ政府の庇護のとどかないところに留まっている大部分の移民に対して多くの問題を生じさせている。

ビルマ人移民とタイでの医療へのアクセス

 タイに住むビルマ人移民は「非合法」の立場にあるため、その大半は往々にしてタイ政府の提供するサービスを受け取ることができず、嫌がらせや逮捕の恐怖の中で生活している。未登録のビルマ人移民の拡大に対応する形で、タイ公衆衛生省(MOPH)は移民が実際にはどのような健康状態にあるのかを調査し、基本的な公共医療サービスの提供を行おうとしている。同省のデータによれば、タイに住むビルマ人移民の最大の死亡原因はマラリアで、次が事故だが、特に作業現場とオートバイでの事故が多い。マラリアは極度の下痢や結核と共に移民の感染数が増えており、タイ国民の健康にも再び深刻な脅威となっている。1996年に不法滞在外国人の雇用が許可される県の数は9つから43へと増加したが、公衆衛生に関して、急増する移民に対処する十分な処置が取られていないとしてタイ政府を批判する声があった。その後タイ政府は一部の県で新しいプログラムを実施し、家族計画に関するサービスの提供と病気予防、環境衛生の指導を開始している。しかしこの事業の実施地域内ですら、実施に際する問題が現在も存在しており、様々なレベルの保健政策の担当者がこの新しい施策に十分な形で取り組んではいないのである。

 本国を離れ、未登録の状態にある人々を認知することにまつわる微妙な問題と、(ビルマとタイの両方で)彼らがしばしば直面する虐待の事実を考慮に入れると、移民は孤立し、一般社会、政府や国際機関での報告や政策から除外される傾向がある。その結果、こうした人々との接触が非常に限られたものとなるため、健康に関する――とりわけリプロダクティブ・ヘルスとセクシュアル・ヘルスに関する情報、物資、医療行為の提供が困難となるのである。

調査地域と調査参加者

チェンマイ県:
 同県はタイ北部に位置し、ビルマのカレンニー州とシャン州に国境を接する。県全体では農業が主要な産業だが、チェンマイ市では観光業が発達しているので、建設業、小工場、サービス業が主体である。チェンマイで働くビルマ人移民の大半がシャン人である。シャン人が話す言語とその文化の側面の多くが、シャン人人口を抱えるタイ北部の言語や文化と若干の共通性がある。このためシャン人移民は、他の民族集団に属するビルマ人よりも、容易に意思疎通を行い、タイへの入国方法を探し当てることができる。

 今回の調査では対象をチェンマイ市周辺で働く人に絞った。調査参加者の大半は住み込みで働く典型的な建設労働者だった。住居である粗末な小屋はブリキ製で、天井か窓がなく、暑く、タコ部屋状態でプライバシーはないに等しい。インタビューに応じた人たちは、清潔な水の不足、トイレ数の不十分さあるいは不衛生さ、全体的にみて不衛生な環境に口をそろえて不満を表明していた。調査に参加したチェンマイの工場労働者も工場内での住み込みで、建設労働者に似た、しかし衛生面では若干きれいな場所に住んでいた。工場労働者は通常、水と電気を自由に使うことができていた。

ラノン県:
 同県はビルマ南部テナセリウム管区と国境を接し、ビルマ最南端の街コータウンと向かい合っている。ラノンに住むビルマ人移民はほとんどの場合、コータウンからタイに入国している。同県の調査参加者ではタヴォイ出身のビルマ人(訳注:民族的にはビルマ族だが、独自の文化を持つ)が過半数を占めているが、モン人、カレン人、アラカン人も相当数含まれる。漁業と水産業、プランテーション農業(ほとんどはゴム栽培)が主要な産業である。

調査対象者の民族構成

民族ラノンチェンマイ
ドウェ42.80.0
ビルマ41.10.7
シャン0.296.3
モン12.00.0
カレン1.70.7
カチン0.20.5
その他1.91.5
計 パーセント100.0100.0
人数418409

 ラノン県の農業労働者の間では、プランテーションの中心部に建てられた長屋で共同生活をするのが一般的である。今回の調査でインタビューの対象となった労働者で正式の労働許可を受けている人はほとんどいなかったが、プランテーション経営者は移民に対し、敷地から出なければ安全は保証すると口頭で約束している。水産工場で働く移民はふつう、街の中心部から数マイル離れた港湾地帯に住んでいる。人口過密で不衛生、消えることのない魚の匂いが港湾地帯に共通の特徴である。一例を挙げると、ある一軒の家では35人が生活していた。勤務が交代制で、全員が一度に家にいることがないので、それでもなんとか住むことができるという状態である。

マハチャイ市:
 同市はサムット・サコーン県の港町で、バンコク郊外の工業地帯を形成している。工場と養殖用のプラントが主要な産業である。マハチャイのビルマ人移民は狭い場所で大勢が集まって生活しているため、バンコクに程近い工業都市というよりは国境の町に来たような錯覚を覚える人がいても不思議ではない。複数のタイ人当局者によれば、マハチャイにはバンコク周辺で最大のビルマ人移民コミュニティが存在している。ビルマ人移民は、ビルマ人、モン人、カレン人、ラカイン人、パオ人、シャン人など様々な民族から成り立っている。

 大工場に雇用される移民はふつう共同で部屋を借りており(一部屋に20人程度が住み、布で生活空間を分割している)、小工場で働く場合には敷地内の部屋かブリキと木で建てられたバラックに住み込むことが多い。

 3つの調査地域すべてで、インタビューに応じた移民の大多数がタイの最低賃金をはるかに下回る額しか受け取っていなかった。男性の給料は、子どもと同様の仕事をする女性よりもかなり高く、子どもの給料が最も低い。賃金は一日70バーツから160バーツ(210円〜480円)だった。雇用者は逮捕を逃れるための賄賂のほか、水道代、電気代を賃金から差し引くことがしばしばで、家賃を天引きするケースもあった。インタビューを受けた人の大半、ほぼすべての女性は、逮捕と暴力を恐れており、働きに行くか、本当にどうしても必要なとき以外には住居のある場所から離れないと話している。

 ラノンとチェンマイでは、警備の手薄なところを通るか、国境に設けられたチェックポイントから日帰りの滞在証を使ってタイに入国するケースが過半数を占めていた。一方マハチャイでは、調査参加者の大半が業者によってタイに入国している。彼らは移動と職探しの料金を請求し、到着後数カ月から、最大1年まで移民を借金状態にする。様々な民族が住んでいる地域では共通の言語や文化が存在しないため、そこにつけいる雇用者や業者が民族間での恐怖や不審感を煽ることがしばしばである。

暴力の種類

 調査に参加した移民は、ビルマとタイの両方でおびただしい数の暴力の経験を語っている。調査結果が示しているのは、暴力と暴力に対する恐怖によって、ビルマにいる間だけでなくタイに入国してからも、参加者が健康問題を解決する能力や、健康に関する問題に対する医療処置を要求する能力は著しく制限されている。

 ビルマではビルマ政府による広範囲の暴力が語られたが、反政府勢力や少数民族勢力による暴力を経験したとの証言もあった。具体的には、戦争によるまたは/および政治的な抑圧、強制移住、ポーター、兵士、労働者としての強制徴用、強かん、税金の徴収、その他のいやがらせが挙げられた。こうした虐待行為は、働いてもたいした稼ぎにはならないと語りながらも彼らがタイで生活を続けることを選ぶ際の、そしてもちろんビルマからの出国を選ぶ際の最大の要因である。

 私の夫は村の助役で、民兵の任務についていました。彼は様々なグループを恐れていました。反政府ゲリラが求めたときには米やお金を徴収しなければならず、ビルマ兵から疑われれば、私たちが罰せられることになりかねませんでした。昨年夏のある時期に、村の人たちがビルマ兵から殴られ、他の町へ強制的に移住させられました。反政府ゲリラが調理用の大きな瓶をいくつか貸すよう寺院に求め、僧りょの方では求めに応じるほかなかったのがことの起こりでした。後日ビルマ兵がゲリラを攻撃し、基地に侵入しました。そこで私たちの村のイニシャルが入った、調理用鍋のふたを見つけたのです。兵士は村にやって来て住民を殴り、住職が寺院に預かっていたお金と金(きん)をすべて持ち去りました。兵士は住職まで殴りつけ、無理やり服を脱がせることさえしました。兵士はその夜、私たち全員に移住を命じました。(シャン人、女性、33歳、チェンマイの建設労働者)

 チェンマイの調査参加者(シャン人がもっとも多い)のほぼ半数が、強制移住の経験者で、6割にポーターとして強制的に徴用された経験があった。強制労働に徴用された人の割合はラノン(67%)とチェンマイ(80%)の両調査地域ともに高率だった。ビルマ軍またはビルマ政府の役人による強かんや逮捕への恐怖も、シャン州出身の移民がビルマ出国を決断する際の決定的な要因となっている。恣意的な課税や、しばしば市場価格を大幅に下回る値段で固定されている食物統制価格によって、ビルマ全土で多くの人々が貧しい生活を余儀なくされている。こうした要素も、ビルマを出国し、生計を維持するのが難しいにもかかわらずタイでの生活を続ける大きな理由として挙げられている。

ビルマで強制労働・強制移住を経験した人の割合


ラノンチェンマイ

女性男性女性男性
ポーター30%19%25%51%68%59%
強制労働75%60%67%77%83%80%
強制移住18%15%16%44%51%47%
合計人数210208418218191409


経済面での暴力・虐待を経験した人の割合


ラノンチェンマイ

女性男性女性男性
賃金未払い25%25%25%39%68%53%
(人数)(51)(50)(101)(84)(129)(213)
雇用者による虐待30%19%25%51%68%59%
人身売買の被害者2%3%3%8%2%5%
(人数)(5)(6)(11)(18)(3)(21)
雇用者によるもの0%0%0%77%67%76%
親しい友人によるもの40%50%45%11%0%9%
人数208203411216189404

 移民はタイ入国後も恐怖と暴力から逃れることはできない。調査参加者は不法滞在というタイでの法的地位を原因とする虐待行為の経験を一貫して証言している。ほぼ半数(45%)がタイ警察かタイ軍に一度は逮捕された経験を持っている。警察や軍はしばしば釈放と引き換えに金銭を要求するか、逮捕した移民を拘留後に国境に送還している。
 3分の1以上(38%)が雇用者による、あるいは労働現場での盗みあるいは虐待の被害を語った。しかし今の仕事をやめ、新しい職場を探す以外にそれを逃れる手段はない。

 初めてタイに来たとき、パイナップルの缶詰工場で働きました。賃金は非常に低く、仕事が異常にきつかったので、辞めることにしました。しかしその後に逮捕されてしまいました。釈放後にマハチャイのエビ市場で仕事があると聞かされました。ここに来るまでに職場を3回変えなければなりませんでした。2回住居を変えましたが、1度は逮捕されたためで、もう1度は経営者の私に対する扱いが嫌だったためです。(ビルマ人、女性、37歳、マハチャイのインフォーマルな医療行為者)

 それに加えて、雇用者による、あるいは労働現場での虐待には業者や人身売買を行うブローカーが関与している。虐待には賃金の遅配や不払い、身体的・性的虐待、雇用されている移民の安全や健康に対する一般的な配慮の欠如などが含まれる。

 私たちは6カ月間賃金未払いのままに働きました。ある日支払いを要求したのですが、雇用者側はもし金を要求するのなら、拳銃の弾も一緒にくれてやると言ってきました。怖くなって私たちは逃げました。(タボイ人、男性、18歳、ラノンの農業労働者)

 コミュニティ内部での性的虐待やその他の虐待行為も、主に女性の調査参加者から報告された。独身の少女や女性は差別や暴力の被害に遭いやすいと考えられているため、早いうちに結婚するか、身を守るために結婚したと語っている。

 経営者夫婦は親切でしたが、大学が休みの時によく訪ねてくる妻の弟がいました。彼はいつも私の身体に嫌がらせをしようとしました。彼はふざけて私の陰部に触っているふりを装っていました。彼のことが怖くなったので、ビルマ人の世話人に結婚してくれるよう頼みました。彼が結婚を承諾してからは何の問題もありません。(モン人、女性、22歳、ラノンの農業労働者)

 移民は高い割合でタイ国内でのドメスティック・バイオレンスを報告している。3分の1が、移民自身の安全確保に直接の悪影響を及ぼす、コミュニティ内部でのその他の暴力として、けんか、所持品の没収や盗難の被害、恐喝、盗みなどを報告している。

暴力が及ぼす健康への影響

 この調査の対象となったビルマ人移民に発生していた深刻な健康問題にはマラリア、労働災害、下痢、皮膚病、うつ病である。移民が医療を受けようと(あるいは、受けないと)判断する際の主な要因には、彼らの不法滞在者としての地位、貯金額、タイ語会話のレベルが挙げられる。

 私たちは病院に行くのに必要なIDカードを持っていませんでしたし、タイ語もうまく話せませんでした。薬局で薬を買って自分で治していましたが、悪化するときもありました。病状が悪化して病院に行かざるを得なくなる人もいました。病院に行くとなると付き添い人を雇うだけでなく、交通費と高価な治療費も負担しなければなりませんでした。皆が薬を買って自分で治そうとしています。病院に行くのは非常に高くつくからです。(シャン人、男性、34歳、チェンマイの建設労働者)

 IDカードを持っていない人は死にます。小川の近くに住んでいた少女は出血多量で死にました。雇用者をあてにすることはできません。お金かIDカードがなければ、死ぬしかないのです。(モン人、女性、16歳、ラノンの農業労働者)

 大多数の移民はまず薬を買うか、伝統的な医療行為者か伝統療法に従って健康問題を解決しようとする。移民のコミュニティの内部では、健康状態が悪化するか死に瀕するような状態になるまで公共医療サービスを受けないのが一般的な傾向であると話す移民も多かった。この調査で報告された死亡原因は多い順に妊娠と出産、マラリア、労働災害である。

暴力が及ぼすリプロダクティブ・ヘルスへの影響

 セクシュアリティとリプロダクティブ・ヘルスを自由に議論するために必要な情報と能力は、3つの調査地域すべてで制限されており、医療を受けるかどうかのジレンマを深刻なものにしている。これらの話題に関する情報と議論の範囲はジェンダーと教育レベルによって異なっていた。男性の調査参加者は女性に比べ、同性同士でこの問題を議論することへのためらいが少なかった。公式の高等教育を受けた参加者(大半は中央ビルマ出身のビルマ人)は、セクシュアリティとリプロダクティブ・ヘルスに関する情報により多くのアクセスがあった。女性参加者のうちではこうした情報にアクセスすることができないか、知識がほとんどないに等しい人が過半数を占めた。

 調査参加者の大半(90%)が出産時の合併症が重大な健康問題であると考えている。チェンマイの調査では特にその傾向が強かった。ラノン(とマハチャイの参加者)で報告された出産方式の過半数は、ビルマとタイ両方共に自宅分娩だったが、ビルマにいたときよりもタイでの方が病院で出産する女性は多い。

 建設現場で私の隣に住んでいた女性は妊娠していました。彼女はお金がなく、病院に行こうとしませんでした。夫の手を借りて自宅分娩を試みましたが、合併症を発病しました。深夜近くに夫は助けを求めて外に出ました。彼が帰ってくると妻にはほとんど意識がありませんでした。病院に行く途中の車の中で出産しましたが、母親は到着する前に死亡しました。赤ん坊は女の子で、その病院の看護婦の1人が父親の同意のもとで彼女を養子にしました。(シャン人、女性、40歳、チェンマイの建設労働者)

タイでの出産と産後の問題に対する調査参加者の認識(%)


ラノンチェンマイ両方
認識の度合


深刻ではない888
多少深刻204131
深刻272124
非常に深刻382833
わからない724
合計 パーセント100100100
人数(411)(402)(813)
出産場所


病院349463
診療所1608
産婆*による自宅出産46627
産婆なしの自宅出産201
その他201
合計 パーセント100100100
人数**(88)(82)(170)
産後の療養場所


病院366650
診療所24716
伝統的な治療者82516
自宅30016
その他232
合計 パーセント100100100
人数***(67)(56)(123)
* 「産婆」はTraditional Birth Attendant (TVA)の訳
** 調査対象者のうちタイでの出産経験がある人
*** 調査対象者のうち産後の療養を必要とした人

 3つの調査地域すべての調査参加者は、ビルマにいたときには避妊に関する知識あるいは方法について、ほとんどあるいはまったく知らず、利用することもなかったが、タイに来てからは避妊をすることが増えているという。経口避妊薬と注射可能避妊薬がもっとも一般的な産児調整の方法として用いられている。避妊薬使用者の過半数は移動式あるいは対面販売の薬局で購入しているが、調査参加者の3分の1は診療所か病院で避妊薬を入手している。調査参加者の全員が、具体的な避妊方法名を挙げ、それに関する詳しい情報と副作用を知りたいと語った。中でも多かったのは経口避妊薬と注射可能避妊薬である。

 子宮に注射を打ってもらい、妊娠を防げると説明されました。計4回打ちましたが、効き目はありませんでした。再度妊娠したのです。姉妹の一人は薬が切れたのではないかと言っていました。(シャン人、女性、35歳、チェンマイの建設労働者)

  妻は人に頼んでピルを買いに行ってもらいました。注射もあるのですが、IDカードは持っていませんし、言葉もうまくしゃべれないので、行くのが怖いのです。(シャン人、29歳、チェンマイの建設労働者)

 望まない妊娠をした経験があると話した調査参加者のうち、17%が中絶を試みたが、成功したのはそのうち45%に過ぎない。中絶を行う主な理由は、未婚である、すでに子どもが多すぎる、政治面・金銭面で子どもを育てるだけの安全な状態にないことである。調査地域のすべてで、女性は中絶による深刻な副作用があったと話している。

 最初は注射による中絶を試みましたが、5日後に出血がなくなりました。そのためお金を払って助産婦のところに行きました。彼女は鉄の棒を使って中絶の処置をしていました。怖くなったので家に帰り、夫にマッサージをしてもらい、おなかの上に乗ってもらいました。とても熱い薬を買って飲むこともしました。でもまだ中絶ができないでいます。(タボイ人、女性、42歳、ラノンの製材工場労働者)

 女性の16%、男性の9%が、パートナーには現在、自分以外のセックス相手がいると考えている。加えて、性に対する考え方がとくに女性の間で変化していることも明らかになった。これは都市での生活に触れていること、移民となり、それまでの密接な社会のネットワークから出てきたことが原因である。しかし、(訳注:男性と女性の間では)異なった性規範がはっきりとした形で現れている。処女性には強い意味づけがなされており、少女と女性はこの価値に結び付けられている。結婚前の処女喪失はしばしば深刻な結果を引き起こしている。一方で少年と男性は、本質的に強い性衝動を有しており、結婚前から性的に活動的であるとみなされている。男性がセックスを提供する商業施設に通うことは一般的な社交行事だと考えられている。独身男性がセックス・ワーカーのもとに通うことは、社会規範の上で支持されてはいるが、結婚後については独身時ほど容認されているわけではない。

 調査参加者の過半数がコンドームについて聞いたことがあるという(91%)ものの、使用経験があるのはわずか14%である。男性の方が女性よりもコンドームを使ったセックスの経験が多かった。一般的にコンドームは不信と乱交の象徴であり、コンドームを使わないことは逆に、信頼とパートナーに対する忠実さの表明である。女性の多くがコンドームに対して否定的な反応を見せている。男性でも同様だが、抵抗はより少なかった。コンドームを使えばAIDSなどの病気を防ぐことができることは知っている人は多いものの、使用したいとは思わないと答えている。

 コンドームについて夫と話をしようと思ったら、どう言ったらいいのかわかりません。まったく知りませんから。私には関係のないことだし、考えたこともありません。夫も私も2人の間でコンドームを使う必要なんてありません。男が遊びたいときにだけ使うものですよ。(タボイ人、33歳、ラノンの製材工場労働者)

 調査参加者のほとんど全員がAIDSについて聞いたことがあるという。しかしHIV/AIDSの感染ルートについての質問に正確に答えられたのは、参加者の60%に過ぎない。HIVとAIDSの違いがまったく理解されていない。HIV感染には症状が現れない期間があることを知っている人は1人もおらず、健康そうに見える人がHIV/AIDSに感染していることなどあり得ないというのが一般的な認識である。調査参加者の大半が、AIDSに関連する症状を発症している人とは一切接触を絶つべきだと考えている。AIDSに関する話題は、調査の対象となった移民の大半に恐怖とスティグマを呼び起こしたが、HIVポジティブになる危険性があると感じている人はほんのわずかだった。この調査結果は、参加者がAIDSを性行動に関わる病気ではなく、リスクグループ(主にはセックス・ワーカー)に限った病気であると捉えていることを強く示唆している。AIDSをリスクグループと結び付ける考え方は、すでに社会から強くスティグマ化されたグループである、セックス・ワーカーへの恐怖と偏見を煽っている。

結論とリコメンデーション

 ビルマからの移民はビルマ国内の政治面、経済面での問題に端を発している。政府による人権侵害と民主主義に対する弾圧は現在も和らいでない。政府関係者と直接に協力してこの現実を解決しない限り、ビルマ人はタイに大量に移民し続けるだろう。タイ政府が単独で行う、国外追放や強制送還などの措置によってこの問題が解決することはない。ビルマからの移民の大量流入の原因を解決するためには、タイ政府は国際社会だけでなく、ビルマ政府と直接協力しなければならない。これは、「不正規移民に関するバンコク宣言」のようなメカニズムによるASEAN諸国との多国間協力とともに、二国間協力による対処によって可能となるのである。

 今回の調査結果は、移住労働者と彼らの社会的地位に関するタイの国内政策の方針には、この問題をより人間的かつ効果的に対処する方向で、変更が加えられる必要があることを示している。タイの移民労働者政策は国家と地域の2つのレベルで共に、両レベルの担当者の参加と責任を含んだ実施のためのフレームワークを伴って行われなければならない。移民に焦点を絞った医療政策は、移民だけでなく、より大きなコミュニティの生活の質と福祉を向上させる上で欠かせない重要事項の一つである。

 移民には、人権侵害に直面している子どもや人身売買の被害者、難民申請者など様々な集団が含まれており、こうした人たちは保護される必要がある。人権侵害から難民を保護し、その状態からの回復を助ける活動が進展中だが、これは絶対に必要なことである。タイ国内の大量の移民を削減する目的で、強制送還政策を強化し、実施するために積極的な交渉を行うことで移民の数は減少するかもしれないが、間接的な形で、移民をより虐待を受けやすい状況に置くことになるだろう。したがって、保護と回復のための制度が実施に移されるまでは、強制送還は実行可能な選択肢とはならないのである。

 今回の調査結果は、討議およびリコメンデーションの共同作成のため、地方や国の担当官庁、雇用者、タイ国内のNGOなど広範囲に対して発表されている。こうした討議の場では、移民に対する基礎的な保健情報と医療サービスの提供、労働と生活の条件改善に向けた雇用者との共同作業、移民とその家族が労働し、合法的にタイで生活できるための登録のあり方が焦点となっていた。調査結果と関係者との討議に基づいた一連のリコメンデーションを示すことで、本報告を終える。(了)

著者と記事について:テレーズ・カウエッテ(Therese Caouette)はこの調査プロジェクトの中心となった調査者の1人で、1982年以来アジアの移民問題を専門にしている。この記事は以下の調査結果の要約である。Therese Caouette, Kritaya Archavanitkul and Hnin Hnin Pyne, Sexuality, Reproductive Health and Violence: Experiences of Migrants from Burma in Thailand (Thailand: Institute of Population and Social Research of Mahidol University, 2000.) 同書にはタイ語版と英語版があり、同研究所から入手できる。連絡先は、Institute of Population and Social Research, Mahidol University, Salaya, Puttamonthom 4 Road, Nakkonprothom 73710, Thailand.

(訳、箱田 徹)

出典: Therese Caouette, '"Escape from the bear and run into the tiger": The Impact of violence and fear on migrants' reproductive health' in Burma Debate, Vol.7 (4), winter 2000/2001.





(c) ビルマ情報ネットワーク(BurmaInfo) 1997〜



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