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ビルマの環境と開発問題(連載第4回)

秋元由紀(米国弁護士、BurmaInfoスタッフ)
アリンヤウン第28号ビルマ市民フォーラム機関誌)
2004年12月

水力発電開発への意欲

 前回、サルウィン河本流に建設が計画されている3つの大型ダムについて、地元のNGOの活動とともに紹介した。ビルマの民主化問題に取り組む人たちの間では、サルウィン河に架かるダムについては比較的良く知られている。しかし、同じようなダム開発計画はサルウィン河だけでなく、ビルマ国内のほかの水系でも進められている。ビルマが持つ水力発電の潜在能力は非常に大きく、軍事政権、国家平和発展評議会(SPDC)もそのことをよくわかっている。SPDC幹部は機会があるごとに、国家の発展のためにもダムを積極的に建てるべきだと発言している。

 ビルマの4大河川はだいたい北から南に流れている。4大河川とはイラワディ、イラワディに注ぐ主な支流のチンドウィン、シッタン、そしてまだダムのない河としては東南アジアでもっとも長いサルウィンだ。何世代にも渡ってかんがいや稲作、通信、交通に使われ、ビルマの命綱の役割を果たしてきたこれらの河川だが、近年、水力発電というもう一つの目的のために用いられるようになった。

 ビルマの総発電設備容量(約1200メガワット)のうち約3分の1(約400メガワット)が水力によるとされる。電力省や政府の機関紙ニュー・ライト・オブ・ミャンマーなどによれば、SPDCは今後数十もの水力発電事業を進め、総発電設備容量を2万5000メガワット以上も増やしたい意向だという。これらの発電事業の多くは大型ダムの建設を伴う。

 この10年間でも少なくとも4つの大型水力発電所が運転を開始している。シャン州にあるゾージー第一発電所(1995年7月に運転開始)とゾージー第二発電所(2000年3月に運転開始)、ペグー管区にあるザウントゥ発電所(2000年3月に運転開始)、そしてザガイン管区にあるタパンセイ発電所(2002年6月に運転開始)だ。これらの発電量の合計は80メガワットで、ビルマの水力発電設備容量の約5分の1となる。4つの発電所はどれも発電に大型ダムを使っている。ダムの高さはゾージー・ダムが44.2メートル、ザウントゥ・ダムが44.8メートル、タパンセイ・ダムが32.9メートルである。

ダム建設を急ぐのは

 軍政が水力発電開発に意欲を示す裏には、電力に対する国内の需要と近隣国への電力の輸出の可能性とがある。首都ラングーンでも停電が日常的に起きている状況では、国内の供給電力が不足しているのは明らかである。

 現在建設または計画中の発電所のうち、国の中央部(特にラングーンとマンダレーとの間)にあるものの多くは国内消費用の電力供給を見込まれている。例えば、シッタン川水系にはカバウン、ピュ、クン、ボーガタ、イェンウェ、トーイェガッ、シュエジンなどいくつもの地点でダムが建設中または計画中である。これらの発電能力(出力)は20〜60メガワット、ダムの高さは52〜77メートルだ。

 シッタン川の上流の支流には高さ131メートルのパウンラウン・ダムが建設中である。2004年8月に発電所の試験運転が始まり、最終的な発電能力は280メガワットとなる予定だとされている。軍政はパウンラウン・ダムの近くにもう2つの発電所を建設する計画をしている。マンダレーの南東にある高さ130メートルのイェユワ・ダム(発電能力780メガワット)の建設も進んでいる。イェユワ・ダム建設に関連しては、付近の住民が立ち退きを余儀なくされたことや、古い仏教寺院が水没する問題などが指摘されている。

 SPDCは電力の国内供給量を増やすことだけでなく、近隣国への電力の輸出の可能性も重視している。ビルマはタイと共同でサルウィン河の水力発電開発計画を進めており、1990年代の初めに約10地点で調査を行った。生産される電力のほとんどはタイに輸出することになっている。これらの地点のうち、国境にあるウェイジーとダグウィンとの2地点で現在、施工可能性調査が行われている。発電能力はウェイジーが4540メガワット、ダグウィンが792メガワットで、ダムの高さはウェイジーが168メートル、ダグウィンが49メートルとされる。

 ビルマとタイとは1997年にエネルギー取引に関する覚書に調印した。この覚書の中でタイは、2010年までにビルマから水力発電によるものを含めて最高1500メガワットの電力を購入するために努力することを約束した。また、シャン州のタサンでもタイへの輸出用の電力を生産する大規模な水力発電所の計画が進められている。タサン・ダムの高さは168〜180メートル、発電能力は3300〜3600メガワットとされる(最近になってSPDCはタサンの発電能力を7110メガワットに引き上げた)。

 チンドウィン川はビルマの西部、インド国境に沿って流れる。この水系にも輸出用の水力発電所を建設する計画があり、タマンティ、モーライ、ホマリン、シュエザイェといった地点が候補に挙がっている。

ダム建設の真の代価

 一般に高さ15メートル以上のダムが大型とされる。世界ダム委員会(WCD)は、大型ダムは河川流域の環境に修復不可能な悪影響を及ぼし、ダム建設によって世界中で何千万人もの人々が立ち退きを強いられてきたと報告した。また、水力発電用に建設された大型ダムは目標発電量を達成しない傾向にあることも同委員会の調査によって判明した。先進国の中には大型ダムに頼らない発電方法やエネルギーの節約方法を研究すると同時に、大型ダムの建設をやめたり、既存のダムを解体したりする国も出ている。発展途上国でも、大型ダム建設についてしばしば強い反対運動が起きている。

 その中でビルマ軍政は、結果に構わず大型のエネルギー生産を優先させた国々の失敗を繰り返そうとしているようだ。ビルマでは政治・社会的状況のために、大型ダムが及ぼす悪影響がさらに深刻なものとなる。最悪の状況を引き起こす条件がそろっていると言ってよい。ビルマには健全な経済・社会基盤が整っておらず、法の支配や市民参加のシステムがない。環境保護のための規制も弱い。その上に軍隊という要素がある。

 ビルマで開発事業が行われる際には、周辺地域に駐留する軍の部隊が増えることがよくある。この軍隊が人権侵害を起こすのである。周辺住民との話し合いもなく場所が決められ、調査が行われる。軍の部隊が「警備」のために地域に入り、住民を脅して立ち退きを強いる。住民に強制労働をさせることもある。これは今に始まったことではない。1960年に完成したカレンニー州のバルーチャウン第二発電所の建設では周辺住民が強制移住をさせられ、今でも発電所の周りには地雷が埋設されている。

 ダムや発電所建設に関連した強制移住などの人権侵害は続いている。国際労働機関(ILO)は、先に述べたゾージー・ダム建設事業のために地域住民が強制労働をさせられたと報告した。また、シッタン川水系のシュエジン・ダム建設に関連して強制労働が使われたという報告がある。同水系のトーイェガッ・ダム建設に関連しても強制労働が使われ、今後さらに周辺住民の強制移住も起きる可能性がある。2004年に入ってからは、イラワディ河の支流に建設中のパデェ・ダム周辺で住民の土地が強制収用されたという報道があった。

 ビルマでは人権侵害についての詳細で信頼できる情報を入手するのが困難なため、上の事例は氷山のほんの一角である可能性がある。

 サルウィン河本流に計画されているダムの建設予定地域でも、ダムによる環境や周辺住民への深刻な悪影響が懸念される。例えば、タサン・ダムが建設されれば川沿いの地域が230キロ上流まで水没すると予測されている。また、タサン・ダムの建設予定地を警備していた軍隊が周辺住民に軍用の設備を建てるために強制労働をさせられたという報告がある。

 チェンマイにあるカチン・ポストは2004年6月に、カチン州に計画されているミッソン・ダムが建設されれば「30の村にある5000棟の家屋が水没し、8000人が住居を失う」と報道した。さらに、耕作可能な70平方キロもの土地や森林、天然資源が水没するとした。この上、カチン人がカチン文化の中心とみなす、イラワディ河の2本の源流が合流する地点がすっかり破壊されることにもなる。

資金はどこから

 現在、ビルマ軍政は公的な多国籍開発援助(世界銀行やアジア開発銀行などからの援助)こそ受けてはいないが、ほかの資金源、特にアジア各国から支援を得ている。大型ダム建設のためには日本や中国などからの資金援助や民間投資を使っている。

 2002年に日本政府はバルーチャウン第二発電所を修理するための政府開発援助(ODA)を約束し、現在までに一部が支払われている。同発電所はビルマの水力発電設備容量の大部分を生産している。日本はビルマの水力発電にかなり関心を示しており、政府機関や企業が多数の水力地点を見つけ、調査している。例えば、電源開発(JPower)はタサン・ダムの初期施工可能性調査を行った。また、関西電力は2001年8月に水力開発に対する技術支援を行う契約をミャンマー電力公社と締結した。この契約の下で関電が技術支援を行っている地点には、シッタン川水系のイェンウェ、カバウン、ピュ、ボーガタ、シュエジンなどがあるようだ。関電はまた2003年度の経営計画の中で、新たな水力地点の調査を行うためにビルマ軍政と交渉していると述べている。最近ではチンドウィン川のシュエザイェ地点とイラワディ河のミッソン地点との開発に関わっていることが報告された。

 このほか、1980年から2000年までの間に日本工営がイェユワ、タサン、イェンウェ各地点で施工調査を行っている。2000年から2001年にかけては東京電力の子会社、東電設計がシャン州のシュエリ地点で施工可能性調査を行った。現在は一部凍結されているODAが全面的に再開されれば、これらの日本企業はビルマの大型ダム建設を手助けするための好位置についていることになる。

 中国もまた、ビルマの水力開発推進にとって重要な役割を果たしている。中国輸出輸入銀行は少なくとも3つの水力発電事業について資金提供を行っている。また報道によれば、イェユワでのダムと発電所建設のための機材購入は中国からの融資で賄われた。このほか、CITICグループなどの中国企業がマグウェ管区のマグウェ管区のモン、シュエリ、ゾージー、ザウントゥ、タパンセイ、パウンラウンなどの諸地点で水力開発に関わっている。また、長江に架かる三峡ダムの建設に関わった国営機械設備輸出入公社(CMEC)がウェイジー、ダグウィン両地点の開発に意欲を示しているという報道もあった。

 タイがビルマと共同で国境上のウェイジー、ダグウィン両地点を開発しようとしていることは既に述べた。両国はタイの経済協力戦略(ECS)の下でパアンとミェイに工業団地を作ろうと計画しているが、ビルマはこれらの工業団地に電力を供給するために大型ダムを建てる計画を打ち出している。軍政はまた、インド国境沿いのチンドウィン川水系の地点についてインドの企業からの支援を求めているようだ。

 日本が米国と並んで最大出資国であるアジア開発銀行(ADB)は、メコン圏に電力網をめぐらせる基本構想案の中にタサン・ダムを組み込んでいる。この基本計画では、ビルマ、中国、ラオスの水力発電所で生産された電力がタイとベトナムとで消費されることになっている。現在ADBはタサン・ダム建設を含めビルマに対する国別の支援は行っていないが、日本政府と同様、大型の水力発電事業に支援をするにもっと都合の良い時を待っているのかもしれない。

このままではどうなるか

 日本政府やADBが援助をしなくても、ビルマ軍政は大型の水力発電事業への資金をほかから調達できている。このため、発電用の大型ダムの建設は比較的速いペースで進んでいる。いずれにしろ、国中に多数の大型ダムを建てるという軍政の野望がほんの一部達成されただけでも、サルウィンのほかにイラワディ、シッタン、チンドウィン川水系に大型ダムがいくつも建つことになる。そうして、ダム建設に関連して深刻な人権侵害や環境破壊が起き、電力の輸出からの収入が軍政の維持につながりかねない。

*今回の記事は、2004年6月に雑誌イラワディに掲載された記事(Yuki Akimoto, "Hydro-powering the Regime," The Irrawaddy, June 2004)を一部修正し、翻訳したものです。

参考:





(c) ビルマ情報ネットワーク(BurmaInfo) 1997〜



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