トップページ >  ビルマの現状:国際関係・対日関係 >  投資・援助 >  バルーチャウン水力発電所へのODAに強い懸念 人権侵害状況の調査などを日本政府に求める

投資・援助

バルーチャウン水力発電所へのODAに強い懸念 人権侵害状況の調査などを日本政府に求める
2012年3月22日配信 メコン・ウォッチ

日本政府がビルマ(ミャンマー)のバルーチャウン水力発電所への政府開発援助(ODA)供与再開を検討しているとされることについて、特定非営利活動法人メコン・ウォッチが2012年3月21日、政府に要請書を提出しました。

メコン・ウォッチ バルーチャウン水力発電所への政府開発援助(ODA)に関する要 請(2012年3月21日)

外務大臣 玄葉 光一郎 殿
財務大臣 安住 淳 殿

バルーチャウン水力発電所への政府開発援助(ODA)に関する要請

 ビルマ(ミャンマー)のバルーチャウン第2水力発電所について、日本政府が政府開発援助(ODA)の供与の再開を検討しているとされています。私たちは、下記の理由で、本事業の支援には強い懸念を有しており、ODA供与の再開を容認できません。

1.背景

ビルマの「民主化」の進捗状況
2011年3月に発足した新政府を率いるテインセイン大統領が、民主化運動指導者アウンサンスーチー氏との直接対話に乗り出し、氏が率いる国民民主連盟(NLD)の補選への参加を可能にしたこと、また多数の政治囚を解放したことなどは評価できます。しかし現時点では、こうした自由化の大半分は運用上の裁量による動きであり、法その他の制度の民主化に基づいた改革とはいえません。憲法はむしろ「国軍による新しい形の支配」を保障しており、国軍が実質的な支配権を握るという構図は軍事政権時代と変わっていません[脚注1]。

紛争地域にあるバルーチャウン水力発電所
バルーチャウン第1・第2水力発電所(以下、「発電所」)は、ビルマ東部シャン州にある、観光地としても有名なインレー湖を水源としています。インレー湖から流れ出るバルー川は、下流でカヤー州に入る手前の地点で、発電所に水を送るために造られたモービエダムによって堰き止められています。このためダムの貯水池はシャン州内にあります。発電所はダムからさらに下流のカヤー州内にありますが、そこからビルマの最大都市ヤンゴンに電気を送る送電線は、発電所から西に向かい、カレン州北部を横切ってから南下しヤンゴンに至ります。

 このように発電所の貯水池や関連施設はシャン州南部、カヤー州、カレン州という3つの州に存在しています。ビルマ南東部のこの地域では、同国独立当時から、複数の少数民族武装勢力が自治権などを求めて武装闘争を続けてきました。これらの勢力を掃討するためビルマ国軍はきわめて残虐な「四断作戦」をとり[脚注2]、1996年から2011年までに3,700の村落を破壊したと推定されています[脚注3]。さらに、戦禍を逃れるために住んでいた村落を離れざるをえず、国内避難民(IDP)となった人が約45万人おり、そのうちの一部は国境を越えてタイに入り、難民キャンプなどに暮らしています[脚注4]。
2010年から日本が第三国定住制度で受け入れを始めたカレン難民も、この地域から来た人たちです。発電所本体があるカヤー州の状況は特に悪く、推定20~30万とされる州の人口のうち、約3割にあたる約9万が国内避難民となっています[脚注5]。

 発電所は日本の戦後賠償で建設され、1960年に第一段階が完成しました。ビルマで初の大型水力発電所で、その後も二度の円借款で能力増強が行われ、今でも国内の主要電力供給源の一つとして最大都市ヤンゴンと第二の都市マンダレーに電気を送っています。しかしそうした「成功」の陰には、発電所や送電線周辺の住民の多大な犠牲があります。発電所建設当時、住民1万人以上が強制移転させられ、大半は補償を受けませんでした[脚注6]。また第一段階が完成した1960年以降、ビルマ国軍が発電所周辺に駐留する兵員を大幅に拡大したため、国軍兵士による労働の強制や残虐行為が頻繁に起きるようになります[脚注7]。さらに、国軍は少数民族武装勢力による破壊行為を警戒し、発電所及び一部の送電線鉄塔の基部の周辺に多数の対人地雷を埋設しました。そうした地雷を踏んでしまった住民や家畜が死傷する事故が頻繁に起きているという情報があります[脚注8]。

 日本政府は、発電所周辺が現在も、戦闘こそ頻繁には起きないものの、武装勢力が活動する紛争地域であることを明確に認識するべきでしょう。2012年3月現在、発電所周辺に勢力を持つ武装勢力「カレンニー民族進歩党(KNPP)」が政府と停戦交渉に入っているとの情報があります。しかし両者が停戦合意に至ったとしても、民族自決権問題など紛争の根本原因の解決に向けた取り組みが始まるまで、カヤー州に真の平和は訪れず、発電所周辺の情勢も安定しないでしょう。

2.要請

 上記の理由により、私たちは日本政府に、バルーチャウン発電所補修工事への政府開発援助(ODA)再開はいったん白紙に戻し、次のような手続きを踏むことを要請いたします。

・2002年の交換公文に基づく無償資金協力による発電所補修工事について、既に完了している第一期の報告書を公表すること。

・バルーチャウン発電所周辺地域及び送電線が通る地域の現状、特に武力紛争の影響としての人権侵害や対人地雷による被害状況を公正な方法で調査し、調査結果を公表すること [脚注9]。

・発電所補修工事について交換公文が締結された2002年からの10年間で、ビルマでは首都が移転し、新たな大型水力発電所が稼働を開始するなど、電力需要と供給状況が大きく変わった。各発電所および水源や送電線の状態などを含めたビルマの電力供給網全体の中で、日本政府がバルーチャウン発電所の補修を行う必然性や意義を調査し公表すること。

・日本政府がバルーチャウン発電所周辺のような紛争地域でODAの実施を検討する際、環境・社会的悪影響を防ぐため、紛争地域に特有の事情をふまえてどのような規準や注意点を設けているかを公表すること。

【脚注】
1. 例えば次を参照。根本敬(上智大学外国部学部教授)「ビルマ新政府の『民主化』はどこまで本物か?」(岩波書店『世界』1月号)。
2. 武装勢力への食料・資金・情報・新兵の供給を断つため、武装勢力の支援基盤だと国軍が疑う民間人の村落を攻撃すること。
3. Thailand Burma Border Consortium (TBBC), Displacement and Poverty in South East Burma/Myanmar, October 2011.
4. 同上。またTBBCによれば2012年1月現在、タイのビルマ難民キャンプの人口は約14万。
5. Burma Issues, Living Ghosts: The spiraling repression of the Karenni population under the Burmese military junta (Burma Issues/Peace Way Foundation, March 2008).
6. カレンニー開発調査グループ「ビルマ軍政下のダム開発~カレンニーの教訓、バルーチャウンからサルウィンへ」(2006年、日本語訳2009年)pp.30-32。
7. 同上、pp.32-37。
8. 同上、pp.38-39。また、メコン・ウォッチが2006年にタイの難民キャンプで行った聞き取り調査では「[1994年までに]毎月のように水牛や牛が鉄塔の周りに埋められた地雷を踏んで死んだ。…甥と義理の兄弟が、鉄塔のそばの地雷を踏んでそれぞれ片脚をなくした」など、地雷による被害に関する証言が複数得られた。
9. 現地の環境団体等も日本政府に人権問題の調査を求めている。ビルマ河川ネットワーク及びカレンニー開発調査グループ「日本はバルーチャウン水力発電所に関連した人権侵害を調査するべき――新たな援助を検討する前に」(プレスリリース、2011年11月2日)。

【添付資料】
ビルマ河川ネットワーク及びカレンニー開発調査グループ「日本はバルーチャウン水力発電所に関連した人権侵害を調査するべき 新たな援助を検討する前に」(プレスリリース、2011年11月2日)

【コピー送付先】国際協力機構 理事長 緒方 貞子 殿

【本件に関する連絡先】
メコン・ウォッチ(担当:秋元由紀・満田夏花)
電話:03-3832-5034 ファクス:03-3832-5039