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在日ビルマ人

ミャンマー政府が日本国内で20億円徴税活動
1996年1月25日配信 週刊宝石

ミャンマー政府が日本国内で20億円徴税活動
週刊宝石
1996年1月25日号

(発表時期が古い記事ですが、在日ビルマ人への徴税問題の問題点は変わっていないので、資料として掲載しました。収録にあたり、読みやすさを考慮して改行位置を一部変更してあります。ビルマ情報ネットワーク)

在日ミャンマー人はミャンマー大使館に〝税金〟を納めないとパスポート更新も本国への送金もできない。こんな奇妙な噂を追うと――

 「私は’89年にミャンマーを出国しました。そのとき、外国で働くときは収入の10パーセントを税金として政府に払わなければいけないと言われたんです。
 ’91年に日本に入国して、都内のレストランで皿洗いをして、月収20万円もらっていました。ミャンマー政府の規則では、日本で仕事をする場合は最低徴収額が1万円になっているので、自分の給料は10万円だということにして毎月1万円を払うことにしました。
 最初、’92年に品川の大使館に行ったとき、’89年に出国したときからの額を計算され、ペナルティも含めて44カ月分45万9千500円も支払わされました。
 その振り込みの証明を持ってまた大使館に行くと、2週間してから領収書(左ページ写真)(編注:右の画像参照)を送ってきました。僕たちはその領収書がないと、パスポートの更新ができないんです」

 来日4年目のアウン・トゥーさん(30)は、こう奇妙な税金取立ての実態を話してくれた。日本にいるミャンマー人は、一様に毎月最低1万円以上の税金を自国政府に取り立てられているというのだ。

 ミャンマー情勢に許しいジャーナリストはこう説明する。
 「在日ミャンマー人は密入国者も含めて約2万人。定職について収入がはっきりしている人は月に数万円払っている人もいますから、ミャンマー大使館は在日ミャンマー人から年間20億円もの資金を集めていると思われます。
 そのお金がミャンマー軍事政権の武器購入費や秘密資金としてプールされている可能性があります。ミャンマー駐在の日本の商社によれば、軍事政権は年間5億ドルの武器を中国から購入しているといわれています。外貨獲得産業がまだ少ないミャンマーでは、この海外出稼ぎの人から徴収する税金がそうした資金に回されていると思われます」

 総額が年間約20億円。これが秘密資金として軍事政権を支えているというのだから、ただごとではない。

 その点を指摘して税金支払いを拒否している在日ミャンマー一人の話を聞こう。11年前に政府留学生として来日後、現在は名古屋で会社勤めをしているチョー・ティンさん(40)は、こう抗議する。

 「日本で仕事をしているのだから日本政府に税金を払うのは当然ですが、ミャンマー政府に払うのはおかしいです。それも税金を払わないとパスポートの更新をさせないというのは国際的に違法です。
 私は税金を払うのを拒否しているので、パスポートの更新をしてもらえません。大使館からは帰国命令も来ていますが無視しています。
 ただみんなは、帰国したらミャンマーで裁判にかけられたりするのが怖いので税金を払っているんです。でも私はミャンマー人として恥ずかしいので、闘います。
 こうした日本からの送金は、軍事政権にとって大きいんです。4年前にはミャンマー大使館の敷地を売って、数百億円という大金が軍事政権に送られているはずです」

 このティンさんのように、国際的にも前例のない税金徴収の金が軍事政権のブラックマネーに流れていることに抗議して、支払い拒否をしている人ほまれである。

 軍事政権に対する恐怖。この税金を払わないとミャンマーに残された家族が強制労働をさせられるとか、帰国すると僻地の紛争地域で危険な労働をさせられるなどの噂がミャンマー人たちの間で語られているからである。

 来日4年、新宿区内のアパートに住み、歌舞伎町の居酒屋でアルバイトをしているコーレンさん(25)は、きちんとお金を払っているひとり。

 「国には家族が残っています。軍事政権に逆らって家族が困るといけないので、毎月払っています。将来はコンクリートの家を建てることと、車を買うのが夢で、頑張っているのですが」ミャンマーでは公務員の平均給与は2千~3千チャット(1チャット=17円)。その他に現物支給があるというが、首都ヤンゴン郊外で、家を一軒建てるには100万チャットかかるというから、一般の労働者にはマイホームの夢は不可能な数字。

 そのため日本で稼ぐために黄金の国ジパングにやってくるのだが、せっかく稼いだ金も軍事政権では外貨の持ち込みは禁止。日本で働いた金を送金するため、ミャンマー国内に銀行口座を開設するときにも、くだんの「税金支払い証明書」が必要となっている。つまりこの税金を払わなければ、送金もできないシステムなのだ。

 その話を裏付けるのが、外務省南東アジア一課のミャンマー担当。
 「ミャンマー大使館に問い合わせたところ税金を払わなくても罰則規定はないと言っていました。ただ、国内では円やドルの所持が禁止されていて、外国で働いた人にだけ外貨口座が作れて両替ができるという特例が認められています。そのときの外国で働いた証明が、大使館で発行する税金の領収書になるわけで、実際上はこれがないと不利益があると見なされています」
 という答え。

他国では聞いたことがない
 それでは在日ミャンマー大使館の話を聞こう。
 「確かに1万人以上の人から毎月1万円以上のお金を送ってきています。そのお金の総額も、使い道も、答えられません。
 こうした税金について批判があるようですが、働いて稼いだお金のなかから国に税金を払うのは当然です。そういう条件で祖国を出てきているのですから。
 税金を払わない場合は、証明書などの発行が遅くなって本人が困ることになります」
 と、暗に不利益を認める。

 こうした徴収は国際法上、問題はないのだろうか。

 大蔵省国際租税課では、
 「ミャンマー政府がどういうかたちで課税しているかは分かりませんが、それはミャンマーの国の問題。日本側からどうこう言うことではありません。徴収した税金をどのように使おうが、どこに送金しようが問題はありません」
 と解説する。

 また国税庁広報課では、外国人の徴税についてこう言う。
 「不法滞在者は別として、日本に来て1年未満の外国人は非居住者の源泉課税として一律20パーセントの税金を日本に払っています。また1年以上の人は日本のサラリーマンと同じ税金を払うことになります。
 ミャンマー政府の徴収についてはこちらからどうこういう問題ではありません。ただ、そういう例は、他国では聞いたことがありません」
 ミャンマー軍事政権と、ことを荒立てたくないようなコメントぶり。

 ところでこの海外出稼ぎ徴収税だが、そこには日本政府とミャンマーとの外交関係も深く関わっている。
 ミャンマーと日本との関係は深く、現在ようやく幽閉の身を解かれたアウン・サン・スー・チーさんの父親で建国の父・アウン・サン将軍は日本の軍隊で教育を受けた。そのため日本軍の伝統が現在のミャンマー軍にも受け継がれ、師団・連隊など軍の組織はほぼ旧日本軍のものと同じ。
 また第2次世界大戦後、戦時賠償でもミャンマーはいち早く日本と協定を結び、ミャンマーが外国から受ける経済援助の8割以上が日本からのものだった時期がある。

 ’88年に社会主義軍事政権が誕生したのを境に、日本やアメリカからの経済援助はストップし、経済は困窮をきわめたのだが、そのころからミャンマーからの海外への出稼ぎが急増した。このため、出国の際の条件として、収入の10パーセントを政府に税金として支払うことが義務付けられたという背景がある。
 つまりミャンマー政府にしてみれば、日本など外国からの経済援助が打ち切られた穴埋めとして、海外出稼ぎ労働を奨励し、彼らから徴収する税金を外資獲得の手段にしたとも考えられる。

 現在、入国管理局の調べによればミャンマー人の入国は’89年から年間2千人を超え、’91年には4千371人と最高を記録。現在、正規の国内滞在者は3千682人で、不法滞在者が6千人を超え、計1万人のミャンマー人が日本にいるという数字が発表されている。
 しかし別にオーバーステイなどの実数は、2万人とも3万人ともいわれている。

 日本政府は公式には、軍事政権を承認しているが、国際世論に歩調を合わせ、’89年から経済援助をストップしてきた。しかし’95年3月、民主化のシンボル、アウン・サン・スー・チーさんの軟禁が解かれる動きがあったため経済援助を再開している。
 ところが、昨年7月に軟禁から解かれたスー・チーさんは「日本からの援助再開は軍事政権を助けることになるので、まだ経済援助はしないでほしい」と表明しでいる。

 現在、与党の新党さきがけで「スー・チーさんを自由にする会」の東京副代表の和田宗春氏は言う。
 「軍事政権が日本にいるミャンマー人から毎月1万円を吸い上げる制度を作ったのは、’89年ごろからです。ほかの国にはありません。これは一種のアングラマネーで、そのお金の使い道も不明で、ブラックボックスの状態なんです」
 と、軍事政権を承認する日本政府与党の立場と、民主化をすすめるスー・チーさん支援の板挟み状態。

 しかし国際法曹協会の委員である梓沢和幸弁護士は、
 「税金徴収は主権事項です。他国において徴収するのは、その国に対して主権の侵害になります。
 人々が自主的に支払っているのならばいいけれど、事実上強制力が働いているわけですから、日本政府は問題とすべきです。また人権侵害として申し立てをすることもできます」
 と、主権の侵害であり、人権侵害でも問題ありと言う。

 冒頭の在日ミャンマー人のトゥーさんは、こう言う。

 「アルバイト先のフィリピン人や中国人に聞いたら、誰もそんな税金なんてないと言っていました。なぜミャンマー人だけがそんな特別な税金を取られるのか疑問に思うようになったんです。
 それに私たちが一生懸命に働いて稼いだお金が、民主的なスー・チーさんの政権で祖国のために使われるのなら喜んで払いますよ。
 でも実際は軍事政権の都合のいいように使われているのではないかという疑いを持たぎるをえないんです。だから今はお金を払っていないので、パスポートの有効期限は切れたままです。このままではミャンマーに帰っても罰せられるだけですから、帰るに帰れません。早くスー・チーさんが政権を樹立することを願っています」

 自分の国の大使館から〝身代金〟をとられる――。異国で孤独に生きるミャンマー人はいったい何を頼りに生きればよいのだろうか!?

出典:「スクープ! 主権の侵害だ! ミャンマー政府が日本国内で20億円徴税活動」(週刊宝石、1996年1月25日号、48~51ページ)