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在日ビルマ人

キンマウンラ家族に平穏を!
2003年11月21日配信 Asian Info

 日本で知り合い11年にわたって幸せな家庭を築いてきたビルマ人の夫キンマウンラとフィリピン人の妻マリア、日本で生まれた二人の子どもに、いま二度目の強制送還と家族離散の危機が迫っている。

キンマウンラ家族に平穏を!
2003年11月21日
Asian Info(第35号)
渡邉彰悟(在日ビルマ人難民申請弁護団・事務局長)

1.一度目の収容
 軍事政権下のビルマより来日したキンマウンラは、来日直後から在日ビルマ人協会(1988年に日本で最初に設立した在日ビルマ人の民主化運動団体)の原始メンバーとして、母国の民主化運動に参加。1994年4月に日本政府に対して難民認定申請をした。1991年にキンマウンラはマリアと知り合い、そして結婚した。現在、小学校4年生になる長女デミ(9歳)と保育園に通う次女ミッシェル(4歳)は、母親のフィリピン国籍を取っているが、日本で生まれ育った二人は日本語しか話せず、家族の共通言語も日本語だけだ。

 しかし、この一家の幸せな日々に1998年7月、一度目の離散の危機が訪れた。妻子とともに東京入国管理局に出頭したキンマウンラがその日、法務大臣からの難民不認定通知を受けるとともに収容令書が発付され、そのまま東京入国管理局に収容されてしまった。

 妻子については同日、仮放免が許可され収容は免れたものの、その後、キンマウンラの仮放免が認められるまでの3ヶ月間、一家は引き裂かれ不安の日々を過ごした。キンマウンラの仮放免の日、長女デミ(当時4歳)の目には大粒の涙が溢れ、まさに子どもの最善の利益が脅かされたことを示していた。

2.ニ度目の収容
 キンマウンラ一家の裁判は、1998年11月、代理人である在日ビルマ人難民申請弁護団が「退去強制令書発付処分取消訴訟」を提訴し始まった。事件の争点の柱はキンマウンラの難民性、家族統合の原則、子どもの最善の利益の保護などだった。

 それから5年後の2003年5月、東京地裁民事2部(市村陽典裁判長)の判決がなされ、キンマウンラの難民性については狭隘な事実認識で否定された。また、子どもの権利については「在留資格の範囲内」でしか認められないとして、退去強制処分を適法とした。旧態依然。そして、去る10月29日の東京高裁判決。高裁ではたった一度の弁論のみで結審を迎えることとなり、判決の理由部分は3行、結論2行の実質5行判決であった。

 ちょうど今回の高裁の判決の前にイラン人家族、韓国人家族に対する退去強制処分を子どもの権利の側面から比較考量して退去強制処分を取り消すという2つの判決が、東京地裁民事3部より出されていた。そのため、弁護団は高裁に弁論再開を申し立てていたが、その申立を一顧だにせず、10月29日、東京高裁は実質5行でこの家族の離散を容認してしまったのである。そして、その判決から2日後の10月31日、仮放免許可更新のために入管に出頭したキンマウンラは再び収容され、妻子は同日、仮放免。私たちはまた子どもたちの涙を見なければならない状況に追い込まれたのである。

3.この事件が示すもの
 キンマウンラの難民性は、裁判所が簡単に否定しきれるようなものではなかった。仮に「難民」という側面だけでは保護できないという判断をしたとしても、難民という事情に加えて「子どもの権利」や「家族としての統合の利益」を総合的に比較考量して、退去強制処分を取り消すという判断がなされなかったことは、多くの国際条約が実行されている現在の法体系にそぐわない。「在留資格」枠は法律によって決定されるのに、条約上の権利が法律によって左右されるというのは法体系上も矛盾している。

 上記の裁判所には、感性と勇気がないと私はいまになっても思う。自分たちの判断の行く末に当事者が被る可能性のある法益侵害の事実をなぜ、もっと想像力を働かせ直視しようとしないのか。なぜ、国際人権条約に沿った豊かな人権の保護を目指そうとしないのか。

 もちろん、入管も同じである。ビルマの情勢は今年5月30日のアウンサンスーチー氏を襲撃したディペイン虐殺事件以降、ますます悪化している。在日ビルマ人活動家による軍事政権への抗議は激しく、事件以後、駐日ミャンマー大使館前では連日、抗議デモが行われている。依然、軍事政権から敵視されている在日ビルマ人の活動家が帰国すれば、どのような弾圧・迫害を受けるかわからない。それなのになぜ送還できるはずもない人間を収容しようとするのか。まったく理解できない。

4.署名活動
 キンマウンラらを送還しようとし、家族を離散させることを容認する司法と入管行政に国民の批判が集中した。

 NGOビルマ市民フォーラムが、10月28日より開始した署名活動では、(1)キンマウンラと妻子に対する退去強制をしないこと (2)一家の日本での在留資格を認めること (3)キンマウンラを収容しこの家族を苦しめないこと、の以上3点を法務大臣ならびに入国管理局長に要請する署名用紙を作成し、賛同呼びかけを開始した。

 そして、署名活動を開始したところ、わずか1週間足らずで15,000通を超える支援の署名が寄せられた。メールとFAXというやり方であったが、国民のこの家族を保護したいという熱い思いが伝わり、これを受けて私たちはこの家族を絶対に守るという決意を新たにしているところである。この間の多くの人たちからの支援の申入れやメッセージをみるにつけ、子どもの権利をはじめとして条約によって形成されてきた権利というのは、まさにこのような感性と想像力の結晶であると感じているところである。

 弁護団は、署名を携えて11月4日にキンマウンラの仮放免申請をし、またこの家族に対する在留許可を求める要請を法務大臣あてに提出した。署名は現在も続々と寄せられ、22,000通をこえた。

 キンマウンラの収容後、長女デミは手紙にこう書いている。「パパに会いたい。入かんの人、パパを返してください」。

 その思いに一日も早く応えたいし、家族に平穏な日々を戻させたい。