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ミャンマー 日本の援助再開は時期尚早
2002年5月29日配信 朝日新聞 『私の視点』

ミャンマー 日本の援助再開は時期尚早

朝日新聞 『私の視点』(2002年5月29日)

和田茂(国際運輸労連アジア太平洋地域部長)

 自宅軟禁から解放されたミャンマー(ビルマ)民主化運動リーダー、アウン・サン・スー・チー氏を、この10日、ヤンゴン(ラングーン)の国民民主連盟(NLD)本部に訪ねた。1年7ヶ月に及んだ軟禁生活のためか少々やせられたが、真摯で精力的な話しぶりには、軍政下、世界の最貧国の一つに落ち込んだビルマの民主化と再建に向ける強い意欲がにじんでいた。

 世界のマスコミが報道したスー・チー氏解放のニュースは、軍の統制下にあるビルマ国内では一切報じられていない。それでも富裕層は衛星放送で受信できるBBCやCNNで、一般国民も外国からのラジオ放送を通じ、ほとんどその日のうちに知ったようだ。炎天下にもかかわらず、NLD本部の前には多くの人たちが集まっていた。国外から事前申入れが不可能だったため、会談は、飛び込みとなったが、氏は快く時間を割いてくれた。

 私たち国際運輸労連(ITF)は、他の国際労働団体や人権団体とともにビルマの民主化運動を支援し、軍政による労働組合の全面的禁止や強制労働に抗議する活動を続けてきた。民間人を徴用する形での強制労働については、、国連の専門機関である国際労働機関(ILO)が異例の制裁に踏み切ってもいる。

 ところが、ILOの場では制裁に賛成した日本政府(編注)が、実際は、軍事政権への政府援助(ODA)再開を準備してきたのである。私がスー・チー氏と会談した日、日本政府はバルーチャン第2水力発電所改修工事に向け無償援助を開始する交換公文に署名し、スー・チー氏にも津守滋日本大使がそれを伝えたようだ。さらに日本政府は、スー・チー氏の軟禁解除やILO連絡事務所のラングーン設置を理由に、ILOの制裁自体の解除を働きかけていると伝えられている。

 スー・チー氏は私との会談で「強制労働が続いている限りILOの制裁措置は解除されるべきではない」と述べた。日本政府のODA再開に直接言及することは避けながらも、間接的に批判したものと言えよう。

 今回の軟禁解除は1年7ヶ月前の状態に戻っただけで、民主化という点では何の前進もない。経済の悪化に危機感を抱いた軍が制裁解除や国際援助を再開させるために民主化のポーズを演出しているだけと見ることもできる。ビルマでも懐疑的な意見を多く聞いた。

 NLDはエイズ対策関連の人道的国際援助以外は再開されるべきではないとの立場を明確いしている。ビルマでの現状を見れば、日本政府は、軍が90年総選挙の結果を何らかの形で受け入れるまでは少なくとも援助再開を待つべきである。

 ビルマの基礎的インフラは、国際的に孤立する中で極度に劣化した。会談中も2度停電し、会話が暗闇の中で続く有り様だった。国民生活が極度の困難にあることも明らかである。しかし、私の会った交通運輸の労働者や一般国民は、安易な制裁解除や援助再開より、ビルマの本質的な民主化を求めていた。

 こうしたビルマ国内の動きに連動し、スー・チー氏解放を真の民主化に進ませることが国際社会に求められている。軍事政権に息をつかせる日本政府の援助再開は時期尚早である。

編注:ビルマ制裁を決議した2000年6月9日のILO理事会(運営委員会)、同14日の総会で日本政府は制裁反対に回った。理事会の場で制裁に反対したのは40カ国中、中国、インド、マレーシア、日本。総会での制裁決議は賛成257、反対41、棄権31で採択されている。