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投資・援助

中国のビルマ進出~その先にはインド洋がある
2003年1月31日配信 ジャーナリスト 菅原 秀

中国のビルマ進出~その先にはインド洋がある
2003年1月31日
ジャーナリスト 菅原 秀

 中国とビルマ(ミャンマー)が急接近している。1月には双方からの大型訪問団が、矢継ぎ早に両国を往来した。ビルマと中国の急接近は、日本のマスコミではほとんど報じられていないが、アジア全体の問題を考える上でとても重要である。しっかりとウォッチしていかなければならない。

大型派遣団による相互訪問は何のため?
 正月草々、タンシュエ首相、キンニュン大将を始めとするビルマ政府の要人40人が中国を訪れ、江沢民主席を始めとする中国幹部と会談。一連の二国間協定に署名をした。7日付の新華社によれば、中国はビルマに対して2億ドル(約220億円)の特恵借款を行うことを決定した。また二国間協定の内容は産業、運輸、電力、教育、保健、人材育成、スポーツなどの分野で、中国がビルマを支援するというものである。

 今までにも中国はさまざまな分野でビルマとの合弁事業を行ってきた。石油、ガス、森林、海洋などの分野である。さらに、キンニュン大将をチーフとして中国人観光客をビルマに呼び込む施策も継続しており、中国人向けカジノを開設したり、観光地での中国人民幣の使用を許可している。

 今回の大型訪中団は、こうした一連の中国による対ビルマ投資を、さらに確実なものとし、同時にアジアの最貧国であるビルマの経済建て直しを計ろうとするビルマ軍事政権側の明確な意思によるものであろう。

 中国とビルマの二国間貿易は年間6億ドル(700億円)程度で推移しており、ビルマ全体の貿易の12%程度を占めている。

 ビルマ側は今回の恩義へのお返しとして、ビルマ要人の帰国のわずか3日後に中国側要人をラングーンに招待した。中国側は李嵐清国務院副総理を団長とする75人もの大型派遣団によるヤンゴン「親善訪問」を行った。

 お互いの政府中枢の高級幹部がごっそりと2週間にわたって両国間を訪問しあうという今回のイベントは、両国間の利害がぴったりと一致していることを物語っている。では、その利害とは何なのか。

経済の袋小路に陥ったビルマ
 新年早々、ビルマ国内の航空、鉄道、バスなどが次々に3倍程度に値上げされた。この値上げが庶民の生活を直撃し、あらゆる日用品が高騰した。ビルマの通貨であるチャットの闇交換レートもすでに1ドル1000チャットを越えており(公式レートは1ドル6チャット)、ここ1年の間に3倍近くも下落するありさまで、政府の経済運営はほぼ破綻寸前である。しかし人権問題の改善とスーチーとの対話の進展がないことから、先進各国はビルマへの財政支援を控えており、さらに海外からの投資も頭打ちになっている。当面の危機を打開するための資金が必要であった。

 もちろん中国はビルマにとっては最大の友好国である。しかしビルマ政府は中国一辺倒の政策を採ることに反対する国民世論を配慮し、経済的なドアをできるだけ広げるために、ここ数年間は日本、インド、パキスタン、ロシアなどとの積極的な外交を強化してきた。

 とはいっても、こうした国々からさらなる支援を得ることは極めて難しいことから、中国からの資金を得て経済体制の建て直しを計ろうとしたのだろう。すでに華僑資本はビルマの隅々まで入り込んでおり、第2の都市であるマンダレーなどの主要経済は華僑の手に握られている。マンダレーの人々は、華僑の発展を横目で見ながら、自分たちの国が全部中国に取られてしまうのではないかと恐れおののいている。ほとんど資金を持たないビルマの人々は何の対応策を採ることもできない。中国人の異常な進出を快く思っているビルマ人はひとりもいないであろう。つまり、中国との接近は「背に腹は変えられない」ビルマ軍事政権の延命策であるといえよう。その一方、ここまで気前良くビルマを支援する中国にとっては、どういったメリットがあるのだろうか?

中国が欲しがるインド洋への道
 インドのジョージ・フェルナンデス国防大臣は、アウンサンスーチーの支持者として国際的に有名な平和主義者である。広島の平和運動に影響を受け、日本にもファンが多い。1998年に国防大臣に就任する前年の97年、東京で開催されたビルマ国際議連の年次総会のために来日したことがある。その折、フェルナンデス氏は私に対して、その持論である「中国脅威論」を詳細にわたって説明してくれた。

 フェルナンデス氏によれば、中国はビルマの協力の下にアンダマン海のココ諸島に最新式の電子装置を持つ秘密海軍基地を保有しており、インド国防省はその事実を確認している。中国はインド洋に進出したがっており、ビルマ政府に対し経済と軍事の双方で協力する肩代わりとしてインド洋に進出するための便宜を図ってもらっている。中国の脅威をなくすためにはビルマの民主化が最も大事であり、ビルマ軍にシビリアンコントロールが導入されれば、脅威は大幅に削減する。ビルマ政権が変化しない限り、インドは軍備を拡大しなければならない。パキスタンはインドにとっては脅威ではなく、中国こそが脅威なのだ。

 フェルナンデス氏は国防大臣に就任すると同時に、内外に自説の「中国脅威論」を披露し、ビルマとの矢継ぎ早の交渉を開始した。ビルマ軍事政権とインドとの友好関係を確立することで中国の脅威を削減しようというのがフェルナンデス氏の意図だと思われる。

 しかし、今回の中国・ビルマの二国間協力によってフェルナンデス氏の杞憂が現実のものとなる恐れが出てきた。

 中国のビルマ軍に対する軍事協力は、1988年にSLORC(国家法秩序回復評議会、その後SPDCに名称変更)が不思議なクーデターで権力を掌握して以来、拡大の一歩をたどっている。中国人民軍の将校が雲南省からシャン州を経由して頻繁にラングーンを訪れており、数千人規模の中国人民軍将校がビルマ各地で軍事教練を行っていると思われる。

 95年2月、ビルマ軍はタイとビルマの国境にあったカレン民族同盟(KNU)の要塞ワンカー(コームラ)基地を攻撃したことがある。ビルマ軍は最初のうちは通常火器を使用して攻撃していたが、要塞が堅固でビクともしなかった。困り果てたビルマ軍は中国人教官たちに応援を頼み、白燐弾など数種の化学兵器を投入して攻撃に転じた。カレン軍兵士たちは、これら化学兵器によって皮膚が焼けただれ、目を開けることもできずに塹壕から這い出して基地を放棄するしかなかった。その時、カレン軍が持っていたウォーキー・トーキーが「点火できないぞ、早く中国人を呼べ」など、大勢の中国軍人が関与していたことを示すおびただしい交信を傍受している。

 ネウィン時代のビルマ軍は主としてドイツから軍事技術提供を受け、さらにイタリア、イスラエル、ロシア、アメリカなどから武器を輸入していた。しかし、1988年に国際社会が対ビルマ武器禁輸を開始したことから、SLORC政権成立後は大部分を中国から輸入することになった。SLORCは中国の技術援助を得て、ビルマ中部のメッチーラ、プロームなどに保有していた軍需工場を近代化し、自国製の地雷、自動小銃、軽機関銃を量産することに成功している。またこれらの軍需工場拡大のために日本による債務無償プログラムで得た物資を転用している疑いが、英国の軍事評論家によって指摘されている。

 つまり、対ビルマ経済制裁によって武器の輸入が困難になったビルマ軍事政権は、中国の協力に依拠することになったのである。南進政策を採る中国にとってもビルマ政権の国際的孤立は好都合なようである。

日本のODAも南進のための道具?
 中国は南進の準備をゆっくりと確実に進めている。まず雲南省からヤンゴンに至る陸路と空路の確保である。14日付の新華社によれば、今回の訪問で中国政府はビルマ政府との間に債務無償プログラムも締結した模様だ。つまり日本がビルマに対して採っている政策と同様に、債務を取り消す代わりに同額の物資を供給するプログラムである。ビルマ政府はこの恩恵を利用して、中国企業との間でマンダレーのイラワディ川に4車線の橋を懸ける計画に調印している。また昨年4月には雲南航空が昆明からマンダレーまでの定期便を乗り入れ始めている。さらにビルマ政府は中国からの観光客の便宜を図るために、マンダレー市内での人民幣の使用を認めている。

 2010年には「ASEAN-中国自由貿易協定」が発効するので、中国とビルマの一連の協定は、中国が東南アジア地域でのステータスを確立するための露払いともなるであろう。

 中国は日本のODAの一部を軍事転用する可能性を持っている。日本の学者による研究団体「政策構想フォーラム」の提言「政府開発援助(ODA)の国家戦略を作れ」では、中国でのODAによる高速道路網の整備は軍事的効果が高く、軍事転用が可能である。また援助資金がファンジブル(流用可能)なので、ODAの資金を軍事にまわすことを可能にしていると指摘している。

 中国ではミサイルなどをトレーラーで会場に運ぶ記念パレードを頻繁に行うが、こうした行事のためにトレーラーを移動させる高速道路建設に日本は3000億円以上のODA資金を投入してきた。中国の高速道路は中央分離帯をとりはずせるしくみになっており、緊急事態の場合にはすぐに軍事転用出来るようになっている。「政策構想フォーラム」の提言はその事実を指摘しているわけであり、「軍事のための供与はしない」というわが国のODA大綱に違反する結果になる可能性がある。

 日本によるファンジブルなODAのやり方を学んだ中国は、今年になってビルマに対して2億ドルものファンジブルな借款を供与するという形を思いついたのではないだろうか。しかも、中国からの大型親善派遣団は「債務救済」というお土産を持っていったようだ。ビルマの国家予算は極めて小さく、推定1500億円程度と思われる。従って今回の2億ドルの借款は軍事政権が生き残るためには大きな助けになるはずだ。

 恐らくインドはいつまでもビルマに対して宥和政策をとり続けることは出来なくなるだろう。ビルマ政府と50年間にわたって敵対してきたナガランドの武装勢力が新年早々ニューデリーに招かれた事実が、インドの対ビルマ政策が転換する可能性を示唆している。中国とビルマの急接近は、南アジア全域を不安定にする可能性を持っているのだ。また、中国資本の極端なビルマ進出は、ビルマ国内での反中国感情を刺激し、いつ暴動が起きてもおかしくない状態を引き起こすだろう。(了)