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国際社会

ビルマを放置するな
2003年7月21日配信 ワシントン・ポスト

ビルマを放置するな
ワシントン・ポスト(論説欄)
2003年7月21日
モートン・アブラモウィッツ

 長年苦しんできたビルマ国民のために変革がもたらされるという、ほのかな可能性が消えかけている。世界各国がすばやく行動しなければ、民主化勢力指導者でノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー氏の、肉体的ではないとしても政治的な生命は終わってしまうだろう。

 5月30日にビルマ軍が氏の車列に対して武力襲撃を行った後に、氏と氏の政党(訳注:NLD=国民民主連盟)のメンバーらが拘束されてから7週間がたった。氏の解放を求める国際社会の要請は無視されている。ビルマの軍事政権は、アウンサンスーチー氏にビルマ国民との接触を許したのはまちがいだったと考えるようになったらしい。遊説に訪れた国内各地で、氏の演説には相当な数の人が集まっていたので、軍政は自らの支配が危うくなることを恐れたのだ。

 6月10日にアナン国連事務総長の特使、ラザリ・イスマイル氏との短い面会があったのを除いて、ビルマ軍政はスーチー氏との面会を一切許しておらず、氏の居場所も明かしていない。氏は事実上、行方不明である。ラザリ氏は、氏が負傷しておらず、元気だと発表した。しかし、1、2週間で解放されるだろうというラザリ氏の期待は外れた。同時に軍政が一年前にラザリ氏と交わした、国民的和解を進めるという約束も破られた。逆に軍政は、スーチー氏の拘束を正当化する説明をさせるために特使をアジア各国に送った。その間、本国では国営報道機関がスーチー氏を中傷し、当局がさかんにNLD党員を拘束、尋問している。

 スーチー氏が拘束されてから、米国議会は貿易制裁法案を採択した。さらにビルマ軍政幹部の資産を凍結し、米国からビルマへの送金を禁じる大統領令が準備されている。パウエル国務長官はウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿の中で「ビルマ政府を支配する悪漢ども」を非難した(注)。ヨーロッパ連合も既存の制裁を強化し、ビルマへの武器輸出禁止措置を拡大し、高レベルのビルマ訪問を延期した。東南アジア諸国連合(ASEAN)は、内政不干渉の原則から外れ、「アウンサンスーチー氏とNLD党員に課されている制限の早期解除」を求める慎重な声明を出した。ビルマへの最大の援助国のひとつで、今回気まずい思いをした日本は、新規の援助を一時停止した。

 しかし、世界の諸問題の中でビルマ問題の優先度が高いとは到底言えない。欧米諸国などはこれまで、中国、タイ、インドという、ビルマ軍政を生き延びさせるのを手助けしてきた国々の説得に失敗している。ASEAN加盟国は、スーチー氏解放という自らの要請を実現させるための実際的なステップをまったく踏んでいない。そしてタイでは、ビルマ軍政に事態の「正常化」を求める声明を出しただけで、タクシン首相はビルマ軍政への支持を続け、タイに亡命してきたビルマ人やビルマ人民主化活動家を弾圧すると同時に、ビルマへの投資を推進している。ビルマへの最大の軍事物資提供国である中国は、ビルマに対して最大の影響力を持つが、予想通り沈黙している。

 各国の対応がどうであるにせよ、その対応は効果を発揮していない。ビルマ軍政がうそつきで冷酷であることを鑑みると、スーチー氏が生存することを当然のことと思うわけにはいかない。近いうちに何かが起こらなければ、国際社会は氏が舞台から姿を消したことを次第に甘受するようになってしまうだろう。そしてそれはまさに、ビルマの指導者らが期待していることでもある。ビルマのタンシュエ上級将軍は非常な強硬派で、スーチー氏をひどく嫌い、外からの圧力に簡単には屈しない。一方でタンシュエ指導下のビルマ政府は、近隣国との関係を強化することに焦点を置いている。タンシュエ政権に対処する実際的な方法に、あまり望みのあるものはない。武力を使うのはもってのほかだし、中国に深刻な圧力をかけようという意思のある国もない。こうしてみると、スーチー氏の将来が真に重要であることをはっきりと表明するように国際社会を仕向けることと、スーチー氏の拘束を続けた場合にビルマが直面するだろう結果を、軍政の少なくとも一部が理解するようにすること以外にほとんど術はない。

・ビルマ問題を懸念する国々は、ビルマ政府への強い非難を続け、ビルマとの関係の格下げなどの措置を示しながら、スーチー氏が解放されなければビルマ政府と取引をするのが困難であることをはっきりと伝えるべきである。米国が率先してこれを行うべきである。

・各国は特に、中国政府に焦点を当てるべきである。中国政府に圧力をかけるためには、国連安保理でビルマへの制裁決議案が提出されなければならない。中国がこの決議案について拒否権を発動するのは目に見えているが、中国政府は拒否権を発動するのを嫌うため、発動の可能性があるだけでも、少なくとも水面下でビルマ政府に対しスーチー氏解放を強く促すことにつながるかもしれない。

・いずれにしろ、国連はビルマについてもっと発言するべきである。事務総長は、これまでに出してきた慎重な公式声明以上のものを出さなければならない。事務総長は、ラザリ氏に安保理でビルマの状況について報告させるところから始めるべきである。そこから、上で述べた決議につながっていくかもしれない。

・中国以外では、ASEANがビルマに対して最大の影響力を持つと言えるだろう。ASEAN加盟国は、ビルマが排斥されていることによって、ビルマとの関係を維持するのが困難になるだろうことを伝え、スーチー氏が解放されないうちは、ビルマ国内でASEANの会合を開くことが無理なことを明らかにするべきである。米国大統領は、ASEANがこのような努力をするのに協力する特使を任命するとともに、ビルマをもっとも親しい指導者、タイのタクシン首相とマレーシアのマハティール首相とに対し、ビルマを訪問してスーチー氏の解放を求めるよう、強く促すべきである。

 以上のことすべてが実行されるかどうか、また実行されても効果を持つかどうかについて、楽観的ではいられない。しかし、スーチー氏の解放を確保するためには、国際的な努力の強化以外に方法がない。スーチー氏が自由の身でいる限り、ビルマで政治的改革が行われる可能性が消えることはないが、そこまで到達するには長い道のりである。スーチー氏が実際に解放された暁には、解放の喜びの中でも、この道のりの長さと、氏の同志たちのことが忘れられてはならない。(訳、秋元 由紀)

*筆者はセンチュリー財団(Century Foundation)の上級研究員で、1978年から1981年まで駐タイ米国大使を務めた。

注:Colin L. Powell, 'It's Time to Turn the Tables on Burma's Thugs', Wall Street Journal, June 12 2003. を指す。「『逆ねじ食わせろ』 米国務長官がミャンマー軍政批判」(朝日新聞、2003年6月14日)、「米政権 ミャンマー経済制裁へ 政策変更表明、日本との違い鮮明」(産経新聞、同日)など参照。

出典:Morton Abramowitz, 'Don't Let Burma Slide', Washington Post, July 21, 2003.