トップページ >  ビルマの現状:国際関係・対日関係 >  国際社会 >  日本は国民投票に『ノー』を

国際社会

日本は国民投票に『ノー』を
2008年5月9日配信 朝日新聞(「私の視点」)

日本は国民投票に『ノー』を
ベネディクト・ロジャーズ
人権団体「クリスチャン・ソリダリティ・ワールドワイド」政策提言オフィサー

2008年5月9日
朝日新聞(「私の視点」)

 昨年9月、ミャンマー(ビルマ)の軍事政権に対し、多くの僧侶や市民が平和的なデモに立ち上がった。だが、軍政はこれを暴力でつぶし、多数の死者が出た。その中に日本人ジャーナリスト長井健司さんもいた。

 私はミャンマー問題を話し合うため、4月末に日本で与野党の議員や外務省の官僚らと会った。ある議員は「政府は長井さんとその家族を裏切ってはならない」と語ったが、外務省は私の提案をことごとく拒否した。

 軍政幹部を標的にした経済制裁を「効果がない」とし、「対話が有効だ」という。圧力よりも、軍政との関係維持に優先順位があるかのようだ。国連事務総長の関与をより強めさせることにも、あまり熱心ではなかった。事態を揺り動かすことを望んでいないようにみえる。

 5月10日には、新憲法制定に向けた国民投票がある。直前のサイクロンで大きな被害が出ているにもかかわらず、軍政は一部地域を除いて強行する構えだ。市民に投票の機会が与えられるのは18年ぶりだが、ここに至る過程も問題だらけだった。

 新憲法案は民主化勢力を排除して起草された。全文は直前まで公にされず、何に投票をするのか分かっている人はごくわずかだ。反対キャンペーンはおろか、批判すら許されない。違反者は3年以下の禁固刑。国際選挙監視団も拒否され、軍政を安泰にする新憲法案を形式的に承認するだけの国民投票だ。

 こんな憲法でも「ないよりはまし」と言う人もいるが、人権や民主主義に何ら改善がみられないのだから、まやかしの議論に過ぎない。軍が議員の25%を指名する一方で、政治犯、外国人と結婚した人などは選挙に出られない。アウン・サン・スー・チーさんら民主化勢力は自動的に排除されてしまうのだ。

 この国民投票について、私が会った日本の外務官僚は「新憲法に同意するかどうかはミャンマー人しだいだ」と言う。だが、市民は賛成を強制され、反対すれば死の危険すらある。外務官僚は「完全な制度はない」「国によって民主主義も様々だ」とも言ったが、批判すれば投獄されるようなルールが適正な手続きと言えるだろうか。

 もし自分たちの声が無視されれば、市民は再び抗議行動に出るかもしれない。そうなれば軍政は力で応じ、前回にもまして多く血が流れかねない。そうさせないためにも、日本政府は米国や欧州連合(EU)などと共に、この投票が受け入れ難いということを明確に示すべきだ。

 この詐欺的な行為を非難し、軍政と民主化勢力、少数民族との対話をもっと呼びかけるべきだ。軍政幹部への経済制裁にも加わり、国連事務総長の関与強化、世界規模での武器禁輸の実現なども後押しすべきだ。

 そして日本の市民は、長井さんやスー・チーさんに思いをはせ、融和的な方針からの転換を政府に迫ってほしい。