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社会

ビルマ/ミャンマーとAIDS~沈黙のうちにある危機
2001年6月25日配信 タウントゥン(ビルマ国連事務所、ビルマ亡命政権=NCGUB)

ビルマ/ミャンマーとAIDS~沈黙のうちにある危機

2001年6月25日
ニューヨーク
タウントゥン(ビルマ国連事務所、ビルマ亡命政権=NCGUB)

 現在ビルマでは、HIV/AIDS感染が大流行しており、国連の各機関や保健問題専門家たちは、それぞれの報告書で異口同音にこの事実を確認している。これらの報告によれば少なくとも人口の5%が感染していると推測される。この恐るべき状況はHIV/AIDSが非ビルマ族の諸民族や、軍をはじめ、あらゆるグループを襲っており、国家にとっての非常事態になりつつあるということだ。
 この問題に対して今すぐ、しかも考えられる限りの条件の下での措置が行われたとしても、ビルマは長期にわたってこの病から引き起こされるであろうマイナス効果に直面し続けなければならないだろう。アウンサンスーチーは1998年に、こうした見方を踏まえた上で、次のように述べている。

 「ビルマには今、効果的な教育プログラムと保健支援が必要です。もし今すぐ行動に移らなければ、HIV感染は国内で大流行し、社会の安定と経済の将来を強く脅かすことになるでしょう」
 ビルマは多様な言語と文化を持ったさまざまな民族によって構成されている。HIV/AIDSのコントロールや予防のためのプログラムを実施する前に、現在の状態、必要性を調査し、さらに住民が最初の段階から意思決定と計画策定に参加できるように、適切な計画を立てなければならない。スーチーはこの点を考慮した上で、世界保健機関(WHO)による2001年3月のビルマへの調査団派遣の提案に同意した。欧州連合(EU)はこの調査団に対し1200万ドル(約15億円)の資金を援助している。今月末に調査団が報告書を提出する予定と思われる。

 私たちビルマ民主化勢力は、ビルマのHIV/AIDS危機はその根本原因がないがしろにされている限り、効果的な解決はおぼつかないと考えている。つまり、この危機への効果的な対応を可能にするためには、問題に対処するための議論をいったん据え置き、政治的な要因を考慮しながらこの問題を検討しなければならない。なぜなら、現在のビルマを支配する軍政当局は、危機の深刻さにもかかわらず、人道上の重大な危機よりも政治問題を優先させるからである。

 したがってHIV/AIDS危機に対する確実で実際的な解決策は、ビルマの政治問題の全関係当事者が協議することで追求される必要がある。国際社会からの援助を受けるにあたって、その恩恵を受けるためには、もっとも援助が必要な被害地域のコミュニティが協議に参加できるようにしなければならない。HIVの流行地域は、主として非ビルマ族の居住地帯であり、この病に最も感染しやすい状況に置かれている200万人の国内難民(IDP)を抱える交戦地帯であるという事実を考慮し、国連機関と国際NGOによる効果的な活動が開始出来るようにするために、ビルマ全土で人道に基づく停戦が宣言され、平和休戦ラインが創設される必要がある。

 私たちは、宗教指導者、学生、労働者、農民、公務員、軍人、山岳民族、低地民族、ビジネス界に至る社会のあらゆる層が参加した国を挙げての取り組みが開始されなければならないと考えている。国民が協調してこの問題に取り組めば、国内のあらゆる積極的努力の障害となっている現在の人道的危機を解決し、政治的行き詰まりを打開できるようになるであろう。

 国際社会からの人道援助がそれを必要とする人々に正しい方法で届くためには、国連機関やこの分野で実績のある国際NGOが援助物資をコーディネートし、宗教団体をベースとして活動する独立した現地組織を通じて、直接村落レベルにいたるまで、その援助が届く手立てをとる必要があるであろう。

 私たちはまた、HIV/AIDSに対する事業を監視して評価するために、国連機関の代表、ビルマ軍、民主化勢力、感染地域の現地代表から成る全国的な機構の設置を提案したい。人道問題へ対処する共同の努力は、主な政治勢力や国民の間に信頼感を醸成し、自信をはぐくみ、ひいてはビルマ国内の長期的な問題に取り組むための準備をうながす地ならしともなるだろう。

 HIV/AIDSの予防とコントロールのための戦略を成功させ、それを持続的してゆくためには、次の2つの重点目標に基盤を置く必要があろう。

HIV/AIDSに的を絞った予防とコントロールのための戦略

 HIV/AIDSに的を絞った予防とコントロールのための戦略は、HIVの発生原因すべてとの取り組みともなる。発生原因の予防法、HIV検査とカウンセリングのしくみと有効性、HIV感染者の秘密保持と人権保護、HIV感染者や家族あるいはパートナーが利用するための治療や巡回サービスについて、明確かつ理解可能な形で説明がなされなければならない。さらに予防策はHIVの感染形態すべてをカバーする形で行われる必要がある。つまり、性的感染、血液および血液製剤からの感染、妊娠・出産・乳児期の(特に母乳を通した)母子感染などである。

 公共医療サービスが有効に機能するのを阻害する最大の原因は、小さな単位にあるのではなく、社会的政治的なことがらに起因している。予防策が実施されるためには、それに対する政治と国家的優先権が与えられなければならない。女性の地位、麻薬取引に依拠した経済、そして社会の許容度と政治的抑圧を考慮しない限り、予防策の継続は保証されない。また教育の機会、情報・表現・思想の自由、女性の社会的地位の向上などが大事な要因として注目されなければならない。

 ビルマには、特に社会的、経済的、政治的状況の中に、HIVの流行を助長するいくつかの条件が隠されている。ビルマ史上、これほど急速に経済が悪化し、政治的不安定によって、社会全体が変化せざるを得なかった時代は存在しない。都市での経済活動の機会が枯渇したために、大量の若者が男女を問わず、国境へと向かって貿易にたずさわるか、マラリアと麻薬のはびこる金鉱やヒスイ鉱山に富を求めて向かっている。その一部は国境を越え、隣国で不法移住労働者となっている。麻薬常用者は低く見積もっても5万人にまで増加しており、注射針の共用がHIVの恒常的な感染源となっている。カチン州パーカンのヒスイ鉱山を対象にした1996年の調査によれば、同地域の静脈注射による麻薬常用者(IUD)の95.5%がHIV陽性であることが明らかになっている。

 経済的貧困の渦中で最も苦しんでいるのは女性である。現軍事政権(SPDC=国家平和発展評議会)は第22回女子差別撤廃委員会で、ビルマ社会では男女が平等だと主張しているが、実際のところこれは神話である。教育の機会、医療、経済活動の機会、政治の意思決定への参加など各面で女性は取り残されている。女性に対する差別と暴力が、特に軍人による強かんが、非ビルマ族の居住地域で日常的に発生している。

 国境を越えた地域でのビルマ人少女の売春率をここで述べる代わりに、多くの人々からまだ注目されていない別の側面を喚起したい。わが国の経済問題の悪化は、ビルマ国内での売春によって生活する少女の数をも増加させている。ホテルが外国人観光客に提供する少女の数は日を追うごとに増加している。わが国のまさに中心である首都ラングーンで発生している問題であるにもかかわらず、当局はこれを無視している。調査によれば、性産業従事者(CSW)の29.5%が1998年の段階でHIVに感染している。女子差別撤廃委員会の専門家委員会は、ミャンマー政府の報告(A/55/38, 28/01/2000)に対しての総括結論およびコメントとして、HIV陽性の女性の増加に憂慮を表明し、政府に対して、女性の権利を侵害した軍人を含む加害者の訴追と処罰を求め、さらに警察官と軍人全員に対する人権教育と異性を尊重する研修を行うように求めている。

 現在も続く内戦は、強制労働、強制移住、拷問、超法規的処刑、金銭や食料を始めとする物品の略奪、などの人権侵害の結果、大量の国内難民や民族集団の隣国への脱出を引き起こしており、一部は脱出先でHIV感染のリスクにさらされている。女性の権利保護、女性の地位向上、経済再建、全民族間の和解といった課題が対話プロセスに含まれる必要性は明らかである。

 ここで強調したいことがもう1つある。それはHIV/AIDSの予防とコントロールのためのプログラムによる一時的な措置の結果がどうであれ、ビルマの医療制度に関する現行の政策と構造が改革されない限り、プログラムの成功を維持するのは不可能だということである。医療制度の構造と機能は1988年に軍部が権力を掌握して以来、変化していない。ビルマの医療は主として公的なものであるが、都市中心のエリート主義的な制度となっている。国家の医療費支出が低下しているため(1998年度ではGDPの0.2%)、公共部門は十分な医療を提供することができない。

 公表されている予算上の数字によれば、一人当たり軍事費は医療費の9倍にのぼっている(「ビルマに関する世界銀行の報告書」(2000年)の図7.1、7.4、7.5を参照)。公共部門で生じている一般的な財源上の制約により、質の高い医療従事者と医療設備の不足、医薬品の不足、医療従事者の腐敗が生じている。公共医療サービスの質の低さに直面している国民は、拡大している民間部門にますます依存するようになっている。世銀報告書の図7.3と7.6はこの事実を示すものだ。

 SPDC(ビルマ軍事政権)による市場開放経済の導入にともない、専門家が経営する海外製の医療設備を備えた民間総合病院が大都市に姿を見せ始めた。しかし金銭的な余裕のある一握りの富裕層だけがこうした民間医療サービスの恩恵にあずかることができる。公共部門と民間部門の、あるいは民間部門内部での保健事業に関する方針の立案と実行という面からみれば、現行のビルマの医療制度には組織のタテヨコを統合した機能が存在しない。その結果、国家の保健水準が低下しているのである。2000年の世界保健機関(WHO)報告書によれば、ビルマは加盟191カ国中190番目にランクされるところにまで落ち込んでしまっている。

 国民の健康水準を向上させるため、ビルマは国際社会からの援助を必要としている。しかし国連開発計画(UNDP)が1991年版の人間開発報告書で勧告しているように、ビルマ政府は「人間開発への相互的な関与と援助の要請を行う際には、軍事予算を削減し、人道部門への歳出を増加する計画を含む」ことを表明するよう迫られているのである。

(訳:箱田 徹)

出典: Dr. Thaung Htun, 'Burma/Myanmar and Aids: The Silent Crisis', New York, June 25, 2001.

訳注:2001年6月25~27日までニューヨークで国連エイズ特別総会が開催された。25日に行われたタウントゥン博士の発表について、(財)エイズ予防財団専務理事・山田兼雄氏は次のように述べている。

 1日目の午後、1番街、44丁目のチャーチセンターでBurma/Myammar and AIDS: The Silent Crisisというテーマでシンポジュウムが行われた、現在世界で流行に関して不明な点の多い地域として取り上げられたので、聴衆も少なくなかった。Burma Asia UN Service Office のDr. Thaung Htunにより実情が説明され、人口4700万の2%が感染していると推定されると述べられた。
 最後に発言したJohns HopkinsのDr. Beyrerは感染の流行は成人の3.46%で、アフリカの最悪の状態よりはましではあるが、4%のカンボジャに続いて東南アジアとしては2番目に高い感染率であると述べられた。この事実が一般に知れわたってないのは軍政府が実情を公表するのを控えている可能性がある。ビルマのエイズによる死亡者は1999年1年間で48,000人と推定されているがビルマの軍政府の公表は802人である。」

 (エイズ予防財団のWebサイトより。http://api-net.jfap.or.jp/topics/un_aids_repo2.htm)