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社会

アウンサンスーチー氏自宅軟禁解除について、識者のコメント
2002年5月1日配信 ビルマ市民フォーラム

ビルマ市民フォーラム(PFB)の根本敬運営委員、永井浩代表、山本宗輔運営委員のコメントを同フォーラムからの提供で掲載します。

読売新聞・総合(5月8日・朝刊)

「痛み伴う妥協」できるか―政権側に自信、急速な民主化見込めず
根本 敬(東京外国語大助教授)

 軟禁解除の背景には、軍政が国内治安維持に自信を深めていることがある。大学移転政策などにより、軍政は、反政府運動の中核を担ってきた学生間の横の連携を分断、学生運動はほぼ壊滅した。国民民主連盟(NLD)も当局の監視下にあり、国民にあきらめムードがまん延している。こうした状況下でスーチーさんを解放しても軍政の屋台骨は揺るがないとの判断があった。また、ラザリ国連事務総長特使は今回、軍政の理解者であるマハティール・マレーシア首相の(軟禁解除を促す内容と見られる)親書を携えており、軍政に対し相当強い姿勢で臨んだはずだ。

 軟禁解除になったとはいえ、スーチーさん側と軍政側との対話プロセスが明確にされていないことや、民主化運動が「国民統合、地域社会並びに国家の平和と安定を損る」と判断した際の軍政側の出方が不透明な点を考慮すれば、民主化の急速な進展はまず見込めない。スーチーさんも、千人を超す死傷者を出した1988年の反政府運動の反省から、大衆を扇動しての政権奪取という急進策は取らないだろう。当面は、軍政との対話継続を重視しつつ、「非暴力」を柱に小規模集会を開いたり、NLD地方支部を回ったりする地道な活動にとどめるのではないか。

 中期的には軍政側、NLD側ともに、痛みを伴う妥協を迫られよう。具体的には、軍政側は、国民会議を解散し、NLDを加えて憲法審議をゼロから始める一方、NLD側は、十人委員会を解散するとともに、90年総選挙の正当性の主張を放棄し、最終的に両者で暫定連立政権を樹立できるかが焦点となる。 (聞き手:国際部 吉田 健一)

朝日新聞・国際面(5月8日・朝刊)

連立政権など妥協を
東京外国語大学・根本 敬・助教授(ビルマ近現代史)

 軍事政権が解放を決断したのは、解放しても大丈夫だという自信があったからだ。スーチー氏が登場した80年代末と、95年から96年にかけて広がった民主化運動の担い手は首都ヤンゴンの学生たちだった。軍政はその後、首都の大学のほとんどを郊外へ移転させた。世代交代も進み、「政治活動をしないのが身のため」という気分が広がっている。

 スーチー氏は解放が無条件と強調したが、軍政側は「国家の安定を損ねない限り」と条件付け、譲歩したつもりはないだろう。

 現状では、軍政が自ら政権移譲したり、民主化勢力に倒されたりする可能性はない。スーチー氏も「90年の総選挙結果の尊重」という要求を取り下げることは困難だ。連立政権を模索するなど双方が妥協するしかない。

朝日新聞(5月7日・夕刊)

山本 宗補氏:これは「解放」ではなく、軟禁の解除にすぎない。98年9月にスーチーさんをインタビューしたとき、会見場所を出た直後に軍事政権の秘密警察に拘束され、テープやフィルムを没収された。そうした軍事政権の体質はまったく変化しておらず、軟禁解除が民主化への大きな一歩とはとても言えない。95年に軍事政権が軟禁を解いた後、日本政府はODAをいわば「ごほうび」として与えたが、スーチーさんはその後再び軟禁された。いまは、だまされないようにしばらく様子をみる段階だ。(フォトジャーナリスト、PFB運営委員)

永井 浩氏:民主化の進展と評価するのは、現時点では慎みたい。スーチーさんは「無条件解放」を確認したと伝えられているが、軍事政権の声明では「国民統合の優先を前提に市民に政治参加を認める」としており、「優先条件」が浸されたかどうかを判断するのは政権側だ。スーチーさんの政治活動をいつでもまた停止することができるとも読める。経済苦境を打開するために、延命と権利維持を図りながら、国際世論に政治的妥協をアピールするという姿勢は変わっていない。 日本政府は95年の軟禁解除の時のように、安易にODA供与の再開を表明しないでほしい。バルーチャン水力発電所の改修工事に35億円の無償資金供与を約束しているが、慎重に対応すべきだ。(神田外語大教授、PFB代表)