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社会

スマトラ沖大震災・大津波によるビルマ(人)に関する被害について
2005年2月12日配信 ビルマ市民フォーラム

筆者による注:この報告書の出典は、毎日新聞、Bangkok Post、TAGのホームページ上の「カオラック日記」、TAGのミンミンサン氏との電話などをもとに、ビルマ市民フォーラム(PFB)例会用報告書として山本宗補の責任において作成

スマトラ沖大震災・大津波によるビルマ(人)に関する被害について
結論として、軍事政権が狼ならば、タイ警察・入管はハイエナ。
それが津波で被災したビルマ人労働者の置かれた状況である。
山本宗補(PFB運営委員、フォトジャーナリスト)
ビルマ市民フォーラム(PFB)例会
2005年2月12日

1.津波被害を隠す軍事政権

 ビルマの軍事政権は今回の地震と津波による被害状況を、当初から隠そうとしている。

 国際的NGOや国連機関が被災地で被害を把握することもできない。ましてやジャーナリストは入国も許可されないし、現場を見ることはできない状態。

スマトラ沖大地震:インド洋大津波 ミャンマーの被災実態に不透明感
◇軍政、国連調査を制限
【バンコク藤田悟】インド洋大津波による各国の被害が日々拡大する中で、ミャンマーの被災実態だけが不透明感に包まれている。軍事政権は死者数を59人としているが、周辺国よりケタ違いに少ない数字で信頼性が低いうえ、軍政による規制で国連機関なども十分な調査ができない。「被災状況把握のブラックホールになっている」とも指摘され、硬直的な政権の体質が国際社会からの疑念を高めている。

◇外国からの支援も拒否
 ミャンマーはアンダマン海沿いに約2000キロの海岸線を持つ。このため、タイ(死者5300人以上)やインド(同1万人以上)に近い被害も予想されていた。国営紙は地震2日後の28日、初めて津波の国内被害に触れ「死者34人、不明者25人」と発表。今月1日に死者数が59人になったとの記事を掲載した。以来、新たな被災者数は示されていない。
 これに対し、タイに拠点を置くミャンマー人の民主化団体は独自の情報を基に「死者は400人以上」と発表。国連は「死者は少なくとも90人。1万~1万5000人が被災した」との推計を示している。
  しかし、軍政が国連機関などによる被災調査を制限しているため、地震から2週間を経ても状況は依然不透明だ。被災地視察のためタイを訪問したパウエル米国務長官は4日、「衛星写真で判断する限り、ミャンマーはタイのような大被害は免れた」と述べたが、「政府の発表が真実かどうかは分からない」と疑念も口にした。
  6日ジャカルタで開かれた被災国支援緊急首脳会議に出席したソーウィン首相は「政府は迅速に取り組んでおり、(自国のみで)対応可能だ」と述べ、外国からの支援は不必要との姿勢を示した。軍政は、外国メディアや非政府組織(NGO)の入国も厳しく制限している。
 軍政が極端な秘密主義を取る最大の理由は、アウンサンスーチーさんら民主化勢力の封じ込めを続ける状況で、外国からの介入を招くきっかけを与えたくないとの思惑があるためだ。軍政は2月、新憲法草案を審議する国民会議の再開という重要な政治日程も控えているため、当面はこの姿勢を変えないとみられる。(毎日新聞 2005年1月9日 東京朝刊から転載)

2.ビルマ国内の津波による被害

【バンコク竹之内満】ミャンマー軍事政権のペータン副運輸相は1日、記者会見し、インド洋大津波の被害について、死者61人、負傷者42人と発表した。また、家屋601棟と29カ村が破壊され、2592人が家を失ったことも明らかにした。軍政が公式に被害状況を発表するのは初めて。
 会見によると、被害総額は約15億8600万チャット(約255億円)に上る。同副運輸相は、人的被害が比較的軽微で済んだ理由について「無人島によって沿岸部が守られているなど、地理的条件によるもの」と説明した。(毎日新聞 2005年2月2日 東京朝刊から転載)
※山本注:軍政発表の被害額の日本円換算は、実勢レートでは1億6000万円程度。

2-A.イラワジデルタ管区、テナセリム管区、ラカイン州の海岸地帯が被災地。
 約100隻の漁船が各地から戻っていない。サロン族(海のジブシー)と呼ばれる民族は最も被害を受けたと思われる。ランピ島では行方不明は200人。(米国ビルマ・キャンペーン情報)

2-B.ビルマ軍政への津波支援
アメリカ政府が50万ドルをユニセフのビルマ支援として拠出(1月12日)。ユニセフは毛布、衣類、食器類、蚊帳などを被災者に支給。ドイツ赤十字とカナダ赤十字はラングーンの赤十字国際委員会(ICRC)へ救援物資を提供。
中国からは、中華慈善総会がビルマへ25万ドルを寄付。中国での民間義捐金は約63億円(4億9800万元)に達した。中国赤十字総会などの赤十字社が2億6000万元、残りが民間の慈善会。

3:タイ国内のビルマ人労働者の死傷者

タイ国内の死者数合計5321名(タイ人1732名、外国人2173名、不明1416名)。(1月15日現在)

被災地タイ南部6県(ラノン、プーケット、パンガ、トラン、サツン、クラビ)のビルマ人労働者は約13万人。うち正式にタイ当局に登録されている労働者は約6万人。31353人がパンガ県で正式に登録か。実際のビルマ人労働者は2倍以上と見られる。被災地域は、ビルマ最南端のコータウンから南に位置する。そのため、出身地はビルマ南部が多いが、首都ラングーン、マンダレー、カレン州など全国各地からも来ている。)(背景:タイ国内で働くビルマ人出稼ぎ労働者総数は100万人をこえると推定される)

ビルマ人労働者死者数の推計:死者2500-3000人、行方不明者5-7000人。(ビルマ人労働者津波被災者支援組織のTAG広報担当のミンミンサン氏の話)

「(ヤンヤオ寺院の)仮設遺体安置所には3000人分の遺体が保存されている。タイ人の遺体検視官の話では、少なくとも300人かそれ以上がビルマ人のものと思われる。今後三ヶ月間の様々な調査でもっと明らかになると思うが、最終的に正確な死者数や行方不明者数は決して確定できないだろう」(TAG広報担当者ミンミンサン氏の話、2月12日)

秋田大助教授の調査によると、津波の高さはカオラックで最大10.5メートル、プーケット島で最大6.5メートルだった。職場が海岸地帯が主だったことがビルマ人労働者の犠牲者が増大した最大の理由と思われる。プーケットやカオラックなどの観光地でのビルマ人労働者の仕事は、漁業、観光施設などの建設、食堂、屋台や土産物店、ゴム園など。日給は一日70~100バーツ(210円~300円)、月給は3000バーツくらいでタイ人の半分から3分の一。

1万人がカオラックの観光産業で働く。タクアパ郡カオラック地区のビルマ人労働者3-4000人の大半は漁民とその家族。タクアパ郡の漁村(ナムケム村)では1000人のビルマ人が漁船関係の仕事。対岸のコー・カオ島で1000名のビルマ人労働者が被災した。タイ空軍に救出されたビルマ人男性の証言では、同僚15人が亡くなり、600人以上が絶望的。(アメリカ・ビルマキャンペーン情報では、タクアパ郡では200名の死亡が確認され、1500人が行方不明)。

4.ビルマ人被災者に追い打ちをかけるタイ警察・入管・タイマスコミ

タイ警察や入管による逮捕と強制送還、ビルマ人差別

・3週間で2000人のビルマ人を強制送還し600人を拘束中。 このため、ジャングルやゴム園に身を潜めたり、他県や他地域へ移動し、日常的に逮捕の恐怖に怯えている。

具体例1:タイ字紙「カーオソット」(Khao Sod)が1月8日の新聞紙上で、「Maung Thieves」の見出しで、「トラックに乗った1000人のビルマ人がカオラックの被災地で略奪を働いている」と報道。二つのテレビ局もこれを報道。

・タイ法律家協会のスラポン氏によると、「最近の27件の略奪事件のうち、20件がタイ人が犯人。」

証言例1:ミンウー(Ko Mying Oo)、26歳、カレン州出身の証言
「12月30日の10時頃、警察官約10人が働いている建設現場にやってきて、部屋の外に出るようにいわれ、荷物全部を調べられた。彼らに3000バーツの現金と金約45グラム(金額にして約26000バーツ)をまきあげられた。3年間働いて蓄えた金だ。警官に抗議すると、「喉を切るぞ!」と脅された。自分の持ち物を取られ、抗議する権利もない。友人たちも同じで、「タイ人津波犠牲者から盗んだ」と汚名を着せられた。当局に逮捕されることが恐くて、近場から外出することさえしないのに、どうやって盗みを働くことができるというのか」

証言例2:マウンニニ(Maung Ni Ni)、24歳、テナセリム管区タボイ出身の証言
「1月5日の午後4時ごろ、パンガ県タクアパ病院に津波によるケガで入院中の義理の姉を見舞って帰途についた。途中で3人のタイ警察官に取り調べを受け、IDを見せたが、ポケットにあった金15グラム(金額にして約8600バーツ)を取られた」

具体例:ワイジン(Wai Zin)、15ヶ月の赤ちゃんを持つ母親。津波で流産してしまった。1月10日ごろにカオラックでタイ当局に逮捕され身柄を拘束された。二日前に入院中の病院から退院したばかり。

5.死者を弔うこともできないビルマ人被災者

遺体を家族が確認できても、遺体の引き取りを当局に拒否され火葬もできない。また、火葬や葬儀費用も用意できないことも事情もある。

証言例1:テスエイ(Ma Tae Su Aye)、20歳。夫が死亡。モン州出身。
「あの日は夫と一緒にビーチ近くの建設現場で働いていました。津波で夫と夫の兄が殺されました。夫の遺体を見つけたけれども、葬儀のために身柄を引き取ることが許されませんでした。今は避難キャンプで親戚と住んでいます」

証言例2:ミョーウィン(Myo Win)、33歳、テナセリム管区出身
「29歳の妻と3歳半の娘を失いました。遺体を見つけましたが、仏教葬儀をしたかったのですが、タイ当局は身柄の引き取りを許可してくれませんでした」

6.まとめ

 ビルマ人労働者は津波前からタイ警察や入管による逮捕に怯え、雇用主に騙され賃金不払いの事態も頻繁に起きる環境で働いていた。津波後は全てを失った上に、生活環境がより一層危険となった。「ビルマ人泥棒」と誹謗中傷された事件でも明らかなように、「差別、搾取、三級市民扱い」がビルマ人労働者の問題をより深刻にしているため、この状況の改善も必要。
(タイ人によるビルマ人蔑視や中傷は、救援活動がタイ人よりも外人観光客が大切に扱われているので、タイ人被災者の怒りの矛先がビルマ人労働者に向かったとも見られている。ただし、コーカオ島で木に登っていて助かったビルマ人労働者を救出したタイ空軍の事例や、避難中のビルマ人労働者に19日間食糧を提供したタイ人事業主のケースもある。)

 母国の軍政下では政治経済の不安定状態が続き、国民の大多数は貧困にあえぐ。海外で出稼ぎ労働を続け、母国の家族に仕送りをするしか生き延びる方法がない。100万人を越えるビルマ人出稼ぎ労働者の問題の根元は、国民生活を無視し続ける軍事政権そのもので、民主的政府に変わらない限り、ビルマ人労働者の抱える問題は解消されない。
 狼に襲われる母国を逃げ出したら、タイではハイエナに襲われているのが、ビルマ人労働者の置かれた状況である。

7.タイ国内の支援組織

 津波アクショングループ「TAG」(Tsunami Action Group)がビルマ人労働者津波被災者に対する救援活動の中心。TAGはHREIB (Human Rights Education Institution in Burma), MAP Foundation, Thai Action Committee for Democracy in Burma, Action Network for Migrants (Thailand)などの在タイ組織が津波被災者支援のために立ち上げた組織。広報担当:ミンミンサン(Myint Myint San)または、HREIBのアウンミョーミン代表が窓口

TAGの活動内容
米や必要物資の支給、安全な水の確保、仏教式葬儀の提供などが主な活動。カオラックで1000人の被災者、クラブリで140人の被災者を支援してきた。
TAGはバンコクのチュラロンコン大学で行われた1月26日の関係者会議で、入管法17条を適用し、被災県6県でビルマ人労働者を逮捕しないような寛大な措置を内務省に要請した。
TAGはIDカードを失った労働者に対し、行政当局に直接働きかけ、これまでに50人がIDカードの再発行を受けることができた。
「タイ側の対応する体制が全くできていないから、被災者数と比べたらあまりに少ない数と、広報のミンミンサン氏は話した」
TAGへの海外からのサポート団体:OXFAMオランダ、French Chatholic Committee Against Hunger and for Development、USCB(アメリカ・ビルマキャンペーン、12000ドル)など。

参考情報:現在の死者数総合計:23万4000人

インド洋大津波 津波死者17万4000人に--インドネシア

【メダン(インドネシア・スマトラ島)岩崎日出雄】インドネシア保健省は23日、インド洋大津波による同国の死者数が約7600人増え、17万3981人になったと発表した。アチェ州では今なお7000人以上が行方不明となっている。ロイター通信のこれまでの集計と今回発表死者数を合わせると、スマトラ沖大地震と大津波による死者数は23万4000人を超えた。(毎日新聞 2005年1月24日 東京朝刊から転載)

・日本人の死者は26名(2月10日現在)