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社会

スマトラ沖大津波の数えられない被災者 ビルマ人移住労働者に対する支援の状況
2005年3月1日配信 ヒューライツ大阪発行「国際人権ひろば」

筆者付記:本稿は2月末までの情報で作成しました。TAGの活動状況に内容を絞ったため、シャンティ国際ボランティア会(SVA)などのNGOや国際機関の活動については触れていません。ご了承ください。

スマトラ沖大津波の数えられない被災者 ビルマ人移住労働者に対する支援の状況
箱田徹
(ビルマ情報ネットワーク、神戸大学大学院博士後期課程)
ヒューライツ大阪発行「国際人権ひろば」
2005年3月(第60号)

南タイの知られざる外国人被災者=ビルマ人労働者

 スマトラ沖大津波の象徴の一つは、多数の外国人観光客が地元住民と共に犠牲となった南タイのリゾート地の変わり果てた姿と、被災者とその関係者へのタイ人のホスピタリティだった。しかし残念ながら、もう一つの外国人被災者グループ、ビルマ人 (*1)移住労働者の存在はほとんど知られていない。

 津波被害の大きかった南タイ西岸地域6県には、津波前の時点で、人口186万人(2000年)の6.4%にあたる12万人以上のビルマ人が生活しており、推定6万人が被災した[資料1]。しかしタイ人や外国人観光客被災者との大きな違いは、ビルマ人労働者は自国の政府から完全に無視され、被災者としてすら数えられなかったことにある。

 ビルマ政府 (*2)は2月1日にビルマの被害状況を死者 61 人、負傷者 42 人等と発表した[資料3~5] 。しかしこれは「ビルマ国内」の数字だ。ビルマ軍政は、南タイで被災した「ビルマ人」数万人には今に至るまで一切言及がない。ひどい話だ。100万人を超えるタイ国内のビルマ人移住労働者は、軍政の失政から生じた社会混乱と経済崩壊の影響を直接被った層であり、タイ経済の底辺に組み込まれている。南タイでも他所と事情は変わらない。ビルマ人労働者は 法定最低賃金(日額500円前後)をはるかに下回る水準で働き、地域の基幹産業を支えている。

 最新の推計によればビルマ人の死者は2500~3000人、行方不明者5000~7000人に達し、タイ全土での死亡者5395人、行方不明者2991人(外国人、国籍不明者含む)に匹敵する[資料6~7]。だが国際社会の理解や援助も十分ではなく、自国の政府 は無視を決め込んでいる。ビルマ軍政は自国民を窮乏化させ隣国に追いやり、見殺しにしている。

ビルマ国内の被害と支援状況

 ビルマ政府は国内での出来事、特に自然災害を公表しないことで知られる。今回の津波にしても国内での報道は当初行われなかった[資料8]。他方で軍政が当初申告した被害状況があまりに小さかったことは、国際社会の疑念を招いた。国連機関と国際NGOが調査に当たった結果、死者60~80人、長期的な影響を受ける被災者10000~15000人、うち直接の被災者5000~7000人との推計が出された[資料4]。しかしこの数字も独立系メディアなどが把握した被害より小さなものだ。国内では自由な調査ができない以上、正確な被害状況はいまだ不明である。

 被災が確認されたのは、下ビルマのイラワディ、テナセリム両管区とアラカン州の沿岸地域で、住民の大半を占める零細漁民は大きな経済的打撃を受けた。被災直後の救援活動は、ユニセフ等の国連機関やミャンマー赤十字による食糧と飲料水の確保、生活物資の配給が中心だった。今後は本格的な復興など中長期的な支援も視野に入る見通しだ[資料4]。

タイでのビルマ人移住労働者の被災状況

 タイで被災したビルマ人労働者は何重もの苦難を抱える。津波経験の恐怖、仲間や友人、恋人、家族との別離、生活基盤の破壊、衛生状態の悪化といった一般的な被害に加えて、失業、逮捕や送還への恐怖と情報不足が重なった。タイ当局は差別なく支援物資を配給していたというが、実際に救援所に足を向けた人はわずかだった。ビルマ人は当初ほとんど援助を受けていなかったと見られる。

 恐怖には根拠があった。津波発生から3週間で2000人がビルマ側に送還され、警官がビルマ人から多額の金品を強奪する事件が相次いだ。このため森や農園や廃屋に避難する人も増えた。他方で職がないために現地を離れた人も多かった。こうして津波前にはプーケットとパンガー両県にいた推計66000人のビルマ人労働者は半減したのだった[資料9]。

 移住労働者の窮状に追い討ちをかけたのが、集団略奪を働くビルマ人という タイの大衆紙のデマ記事である。これによってタイ社会の一部に根深い反ビルマ人感情が煽られ、支援活動にさえ支障が生じた[資料10]。だがこうした扇情的な報道の一方で、救助や救護、支援にあたる多くのタイ人の真摯な姿があることも強調されなければならない[資料11 、12]。

ビルマ人移住労働者への支援(TAGを中心に)


 ビルマ人労働者への支援の中心は、津波アクショングループ(TAG)である。TAGはタイで活動する亡命ビルマ人組織のビルマ人権教育機構(HREIB)等が中心となり、タイの移住労働者支援組織やビルマ支援組織の支援を受け、1月上旬に活動を開始した。

 当初の活動は、被災地一帯での実態調査、被災者への食糧や生活物資の配布や清潔な飲料水の確保などの物質面での支援、他方では葬儀費用の負担だった。しかし葬儀はおろか、遺体の身元確認や引き取りすら阻まれる状態だったという。

 HREIBのアウンミョーミン氏はIPSの取材に対し「この国で我々ビルマ人が2級、いや3級市民扱いなのはわかっている。だがこれは亡くなった同胞にあまりの仕打ちではないか」と悔しげに語った[資料1、10]。

 グループは現在、緊急支援を終え、次のステップに移行中だ。以下、2月 14 日付の最新報告[資料12]を元に現在の活動内容を概観する。

 対象地域は、ビルマ人移民の多いパンガー県タクアパー郡、カオラック一帯である。救援チームは避難民が身を寄せる農園や建設現場、森の中などに出張し、食糧、生活物資や子ども用のお絵かきセットを配布する。また、大半の被災者が遺失してしまった身分登録証については、再交付申請ができることを伝えている。こうした支援は安定した仕事が得られるまでのつなぎとの位置づけだ。

 逮捕と送還の恐れは被災者を心身両面で圧迫し、支援活動をも難しくする。各方面の働きかけを受けて、タイ当局が移民の逮捕と送還を停止しているのは一定の前進だ。関連して、身分登録証と保険証の再交付によって合法的な滞在の基盤を回復することが、当事者の安全と尊厳を確保する上で急務となっている。TAGは郡役所での再交付手続きを支援しているが、現状では全員の手続き完了まで相当の時間が掛かると見られている。

 他方で死者行方不明者の扱いは大きな課題である。遺族の悲しみは深く、役所の登録票に残された犠牲者の写真を唯一の形見として持ち帰ろうとするほどだ。葬儀はできても火葬が実現できないといった問題もある。また今後の身元不明遺体の確認作業には関係機関の緊密な協力が必要になると予想される。

 TAGの活動は、日本を含む在外ビルマ人、米国ビルマキャンペーン(USCB)などの資金提供、タイのビルマ人学生、タイ国内のNGO、フランスカトリック委員会(CCFD)、OXFAMオランダなどの協力によって支えられている。日本の団体では、アーユス仏教国際協力ネットワーク、ビルマ市民フォーラム、日本ビルマ救援センターが資金提供を行っている。なお日本語情報と関連資料へのリンクは、ビルマ情報ネットワーク(www.burmainfo.org)で提供しているので、ぜひ参照していただきたい。

最後になりますが、今回の大津波で犠牲になった方々のご冥福とご遺族の心の安寧、また負傷された方の一刻も早いご回復を祈願させていただきます。

【注】

(*1)以下、すべてビルマ出身者を指す(ビルマ民族の意味ではない)。

(*2)現軍事政権=国家平和発展評議会(SPDC、97 年に改称)は、89 年に「英語」の国名表記をBurmaからMyanmarへと変更した。筆者は、(1)現軍政の支配には正統性がないので国名変更は認められない、かつ(2)英語表記の変更を日本語表記に機械的に反映するのは誤りと考えており、国名は「ビルマ」を用いる。詳しい論点は[資料2]を参照のこと。

【引用資料】

Tsunami Action Group, 'A Khao Lak Diary,' 4th-15th January 2005. (http://www.saydanatsunami.org/khaolak.pdf)
宇田有三編「資料 ビルマかミャンマーか」(http://www.uzo.net/notice/quo/b_m.htm)
'Press conference on National Convention, relief works for victims of Tsunami, subversive acts committed by internal and external destructive elements,' New Light of Myanmar, 2 February 2005. (http://www.myanmar.com/nlm/enlm/Feb02_rg1.html)
World Health Organization, 'Myanmar Tsunami Situation Report,' Weekly Update 3, 27 January 2005. (http://w3.whosea.org/en/Section23/Section1108/Section1835/Section1851/Section1869_8657.htm)
International Federation of Red Cross and Red Crescent Societies, 'Earthquake and Tsunamis (Revised Preliminary Appeal 28/2004) - Fact Sheet no. 4,' 18 February 2005. (http://www.ifrc.org/cgi/pdf_appeals.pl?04/2804f4.pdf)
山本宗補「スマトラ沖大震災・大津波によるビルマ(人)に関する被害について」(ビルマ市民フォーラム例会資料、2005年2月12日)(http://www.burmainfo.org/pfb/YamaotoTsunami200502.html)
World Health Organization, 'Thailand Tsunami Situation Report,' No. 34, 22 February 2005. (http://w3.whosea.org/en/Section23/Section1108/Section1835/Section1851/Section1870_8810.htm)
ビルマ日本事務所編集部「ビルマ政府はなぜ津波情報の事実を公表しないのか」『ビルマジャーナル』(ビルマ日本事務所、2005年1月号)(http://www.burmaoffice-jp.org/)
'Tsunami Action Group, 'Situation Report 2,' 8 January 2005. (http://www.saydanatsunami.org/report.php?#report2)
Sonny Inbaraj, 'Thai Compassion for Burmese Migrants Wears Thin,' Inter Press Service, January 13, 2005. (http://www.ipsnews.org/interna.asp?idnews=27021) 邦訳「津波被災のミャンマー出稼ぎ労働者 タイ当局差別的扱いと活動家」(IPS、2005年1月18日)(http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200501181034412)
Tsunami Action Group, 'Situation Report 3 : An update on the situation of Burmese migrant workers affected by the tsunami in Phang Nga, southern Thailand,' 31 January 2005. (http://www.saydanatsunami.org/report.php?#report3)
Tsunami Action Group, 'Situation Report 4 : TAG (Tsunami Action Group) Update - An update on the activities of TAG and the situation of Burmese migrant workers affected by the tsunami in Phang Nga, southern Thailand,' 14 February 2005. (http://www.saydanatsunami.org/report.php?#report4)

【参考資料】

山本宗補「現地支援組織の2月14日付報告書要旨」(2005年2月25日)(http://www.burmainfo.org/pfb/YamaotoTsunami200502b.html)
菅原秀「救援の手が届かないビルマ人被災者たち」(2005年1月13日)(http://asia-journal.seesaa.net/article/1569280.html)
ビルマ民主化支援会 (SCDB)「津波によるタイ南部在住ビルマ人被災者情報」(2005年1月10日)(http://www.scdb.org/topic04.html)
Tsunami Action Group, 'Situation Report No.1 : Burmese Migrant Workers in Thailand,' 6 January 2005. (http://www.saydanatsunami.org/report.php?#report1)

出典:箱田徹「スマトラ沖大津波の数えられない被災者:ビルマ人移住労働者に対する支援の状況」、ヒューライツ大阪(財団法人アジア・太平洋人権情報センター)『国際人権ひろば』、第60号、2005年3月、10~11頁。