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社会

予防できる運命 HIV患者を放置するビルマ軍政
2009年2月9日配信 イラワディ誌(ビルマ情報ネットワーク翻訳)

「予防できる運命 HIV患者を放置するビルマ軍政」(ヴォラウィット・スワンニッキット氏、クリス・バイラー氏による寄稿、2月9日にイラワディ誌に掲載)をご紹介します。ビルマ軍政のHIV対策の不十分さを、具体的な数字を挙げて批判しています。

予防できる運命 HIV患者を放置するビルマ軍政

ヴォラウィット・スワンニッキット、クリス・バイラー
2009年2月9日
「イラワディ」誌


国連のガンバリ事務総長特別顧問は2009年2月3日、ビルマへの7回目の公式訪問を終えた。ガンバリ氏はアウンサンスーチー氏や国民民主連盟(NLD)の幹部らとの会合にこぎつけた。スーチー氏らは、意義ある政治改革の実行には、2100人以上いるとされる政治囚を解放することが先決だと述べた。

他方で、ガンバリ氏は今回もビルマ軍事政権(国家平和発展評議会=SPDC)最高指導者のタンシュエ将軍と会うことができなかった。タンシュエ将軍はガンバリ氏より、カンボジアや中国、ベトナムの新しい大使を迎えることを優先させたのだった。

ガンバリ氏は仕方なく、代わりに軍政のテインセイン首相と会った。首相は、国連がビルマの「経済発展と政治的安定」を望んでいるなら、経済制裁を解除するべきだと述べた。経済制裁は健康を害するので人権侵害なのだという。

国連の顔にさらに泥を塗るかのように、軍政はガンバリ氏の訪問の直後、サイクロン被災者への支援活動を監督する三者コア・グループ(TCG=国連、ASEAN、軍政で構成)の議長を務めていたチョートゥ副外務大臣を突然左遷した。

また、ビルマを逃れたロヒンギャ移民がタイやインドネシアで漂着している問題に国際的な関心が高まっていることに対して、軍政は「ミャンマーとはまったく関係のない問題であり、人権問題でもない」と言ってのけた。

政治的に行き詰ったままのビルマでは、保健・人道面での危機も続いている。軍政が「国家的懸念事項」とするHIV・エイズの感染拡大も止まっていない。国境なき医師団(MSF)は2008年11月に発表した報告書『予防できる運命:ミャンマーでのARV治療拡大の失敗』で、HIV・エイズ患者を治療する活動が非常に困難となっていることを明らかにした。現在、7万6,000人のビルマ国民が、生存のために抗レトロウィルス薬(ARV)による治療を必要としているとされる。しかし、実際に治療を受けることができているのは2割に満たない。このうち約1万1,000人は国境なき医師団から薬を受け取っており、1,800人がビルマ政府を通じて治療を受けている。

国境なき医師団は「ARV治療に対する非常に大きなニーズに応えようと、過去5年間で懸命の努力をしてきたが、治療の拡大を一手に引き受け続けることは不可能だと判断した。ARV治療を担う組織がほかにないため、国境なき医師団の能力は限界に達している。大変心苦しいが、治療する新規患者の数を大幅に減らす決断をせざるをえなくなった」と述べた。

生存に必要な薬を与えないという軍政の方針は、国境なき医師団の報告書への反応と同様、予想通りのものである。軍政の保健大臣でタンシュエ将軍の主治医でもあるチョーミン氏は「わが国がHIV患者に効果的な治療を施さず、HIV対策にも十分な支出をしていないとして非難する大国がある。だがミャンマーは2007年に1億9,140万チャット(18万ドル=7000万円)をHIV対策に費やした」と述べた。

これは軍政が患者一人あたり、わずか70セント(63円)しか支出していない計算になる。たったこれだけの金額では、一年分の抗レトロウィルス薬(ARV)を購入しても、7万6,000人のうち約460人しか治療できない。

だが軍政は天然資源に恵まれており、その外貨準備高は40億ドル(3600億円)に上るとされる。2007年度には、タイへの天然ガス輸出に支えられて32億ドル(2900億円)の貿易黒字を計上した。軍政はHIV対策にもっと金をかける余裕があるのだ。

とはいえ、公的資金を一般市民に費やそうとしないことだけが問題なのではない。ビルマではこの1か月で、数十人の活動家や民間の篤志家のほか、地域ベースの援助関係者(HIV関係で活動していた人々も含まれる)などが長期刑を宣告された。こうした勇敢な人たちも政治囚となっているのだ。

HIV患者に住居と治療を提供していたラングーン(ヤンゴン)のマギン僧院の僧侶エインダカ師は16年半の刑を宣告された。僧院は強制的に閉鎖され、僧侶や患者たちは路頭に迷うことになった。

HIVの啓蒙活動を行う団体「レッドリボンの友」のタンナイン氏は6年の刑を受けた。多くの活動家や援助関係者らが脅迫や嫌がらせを受けたり、逃亡生活を余儀なくされたりしている。国民民主連盟(NLD)の党員でHIV患者にカウンセリングや教育、治療先の紹介をしていたピューピューティン氏もその一人だ。氏は患者たちから「希望の山」と呼ばれて慕われていた。

ラングーンのシュエヒンタイェレ僧院には治療を受けるために上京した地方のHIV患者が滞在していた。ピューピューティン氏は滞在する患者への支援活動を行っていたが、この1月に僧院は襲撃され、患者たちは追い出された。

保健分野への慢性的な支出不足のほか、援助活動に対する厳しい制限、援助関係者への嫌がらせや投獄が、ビルマでの保健・人道危機の根本原因となっている。本当に健康を害する人権侵害とは(テインセイン首相が言ったように)経済制裁などではなく、このような問題のことなのだ。

援助はもちろん増額されるべきだ。しかし軍政には自らの役割を果たし、国家予算を国民のために使う義務がある。相次ぐ大災害を尻目に、軍政は1990年代以降、20億ドル(1800億円)相当以上の武器を中国から輸入し、ロシアから5000万ドル(45億円)を超える原子炉を購入し、タンシュエ将軍の娘に豪華な結婚式を行い(祝い品の総額は推定5000万ドル)、40億ドル(3600億円)以上をかけて新首都ネピドーを建設した。

ネピドーには24時間電気が送られており、ゴルフ場が3つに、冷房完備のペンギン舎が置かれた動物園まである。

こうしたなか国際援助機関への活動制限はますます厳しくなっている。特に国内移動や情報収集に関する規則は非常に厳格だ。軍政の優先順位ははっきりしている。ビルマの現実を前にして国際社会が立ち上がらない限り、人道危機は終わらない。治療を受けられないばかりに今日も70人のHIV患者が命を落としているのである。

ヴォラウィット・スワンニッキット、クリス・バイラー(ともに医学博士および公衆衛生学修士)はジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の公衆衛生と人権センター研究員。