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経済・環境

停戦地帯の環境破壊 加速するカチン州の森林伐採
2001年11月1日配信 イラワディ誌

停戦地帯の環境破壊 加速するカチン州の森林伐採
ジョン・S・モンクリーフ、トゥンミャ(昆明・中国雲南省)
月刊イラワディ
第9巻第8号、2001年10月~11月号

「平和」の訪れたビルマ北部カチン州では、一儲けを企む事業家が乱立し、世界有数の「生物多様性のホットスポット」が危機に瀕している。

 カチン州ではいま、大規模な森林伐採権と引き換えに大量の道路建設が行われている。同州のインフラ整備は質量ともに大幅に改善される必要がある。しかしその一方で、この取引の環境への影響は破壊的なものとなる可能性がある。

 カチン独立機構(KIO)、新民主軍(NDA。訳注:89年に軍政と停戦した旧ビルマ共産党系武装勢力。元はKIOの一部)、国家平和発展評議会(SPDC、ビルマ軍事政権)と、ある中国系建設業者との間で最近ひとつの契約が交わされた。仲介役となったのは、カチン人ビジネスマンのユップザウカウンが経営するカチン・ヒスイ社である。契約によれば、この中国企業はミッチーナからスンプラブムを経由してプタオまでの道路、ミッチーナ-バモー間の道路、ワイマウ(ミッチーナ近く)からカムパイチに近い中国国境をつなぐ路線を建設する義務がある。

 3本の道路建設と引き換えに、カチン・ヒスイ社と中国企業はカチン州の奥地の森林伐採権を付与される。伐採が可能なのは2箇所で、1つはマリカ川とマイカ川の間の(デルタ)地帯、もう1つはミッチーナ-マンダレー間の線路と、ミッチーナ-バモー間の道路に挟まれた地域である。この地域はカチン州の中心部でこれまで大規模な伐採が行われたことは一度もなかった。あるウォッチャーは、今回のプロジェクトはビルマ史上最大の森林伐採だと述べている。

 しかしある筋によれば、この中国企業との契約は解消され、ユップザウカウンは現在あるマレーシア企業とこの件で交渉中であるとのことだ。また別のカチン人消息筋によれば、中国、マレーシア、香港の企業がワイマウと中国国境をつなぐ路線を建設しているという。提携先の企業に関する情報が飛び交っているが、ユップザウカウンはこのプロジェクトの推進を目指している。

 ユップザウカウンは、SPDC、KIOの新執行部双方に太いパイプを持つ有力なビジネスマンだ。KIO指導部の大改造があった昨年2月以来、ンバンラ大佐がカチン独立軍(KIA。KIOの軍事部門)の副司令官を務めているが、カチン人消息筋によれば、同大佐はその部下で「民族評議会」代表のンサンラアウン(別名アウンワ)中佐、タナイの第2旅団長ラパイザウタン中佐とともにユップザウカウンから金品を受け取っており、ユップザウカウンはまたSPDC北部司令官のチョーウィン陸相補も買収している。

 東南アジアの全森林の半分を抱えるビルマで現在進行中の伐採は、東南アジア大陸部で最大級の森林地帯を脅かしている。ビルマ・タイ国境地帯では過去13年間に大量の森林伐採が行われた。タイの伐採企業に伐採権を与えたことにより、シャン州、カレンニー州、カレン州の大規模な森林は壊滅した。しかしサガイン管区とカチン州のチンドウィン渓谷には、ビルマでも数少なくなった手付かずの森林が残っている。タイの環境問題専門家はこれらの地帯への伐採権の付与は環境の荒廃をもたらすと見ている。

 伐採権をこれ以上発行すれば、残存する世界的に貴重な生物多様性の豊富な地域を破壊することになる。生態学者のノーマン・マイヤー博士(オックスフォード大学グリーン・カレッジ)の作成したリストによれば、カチン州はインド・ビルマ地帯の一部に含まれており、世界で8カ所ある「最も生物多様性が豊富なホットスポット」の一つである。この世界8大ホットスポットとは、生息地の激減をすでに経験している固有種が、きわめて密集する地域を含んだ地帯のことである。

 同一種の回復がない限り、生物多様性を復元することは困難である。しかしカチン州で復元を行うことは、現実には不可能である。豊かな植物相だけでなく、鹿、タキン、ヘビ、鳥、猿、クマ、トラなどの動物相もカチン州での森林伐採によってすでに生存が脅かされている。カチン州に生息する種の中にはこれまで記録されたことのない生物がいくつか存在しているが、生息地の破壊は記録を行うこと自体を困難にしていると見られる。

 環境保護団体「ワールド・リソース・インスティチュート」は、1998年に発表した報告書の中で、森林伐採の拡大によって大規模な表土流出、河川への土砂の堆積が発生しており、一部では洪水の増大と乾季の水不足の深刻化が引き起こされていると指摘している。伐採の拡大はこうした深刻な問題をさらに悪化させることにつながるだろう。またイラワジ(エイヤワディー)河の源流であるこの地域での森林破壊は、環境だけでなく下流に住む人々の暮らしにも重大な影響を及ぼすことになる。洪水の増加は、イラワジ河の漁業だけでなく流域の水稲栽培をも危機的な状況においやっている。

 あるビルマ・ウォッチャーによれば、新しい伐採権には、大きな、あるいは成熟した樹木だけを選んで伐採するとの規定がある。しかし当該地域のモニタリングを含む事業計画と、問題となっている高収益のために、この規定を適正に実施するのは困難な作業となっている。鉱物採掘権に伐採が付帯しているとの報道にも環境問題専門家は警戒を強めている。採掘は更なる土地の悪化につながるからだ。なおこのウォッチャーは、伐採権はインド国境にまで拡大される可能性があると話している。

 あるアナリストは、伐採は木がなくなるまで5~10年続くだろうと推測している。しかし伐採の規模は、道路の利用状況によって決定される。というのも道路は雨季の間には流され、寒冷期には凍結して通行不可能になるからだ。新しい道路建設プロジェクトでは、車の通れない小道を、木材運搬用のトラック程度が通行可能な第3レベルにまで拡張する工事が行われている。道路の工事費用は、1マイルあたり60万元である。

 カチン州での森林伐採は10年以上続いている。大規模な伐採は、マイカ川東岸から下流のシンボーとバモーの方向にかけて、新民主軍の支配地域である元ビルマ共産党第101交戦区を含んで行われている。この地域からの情報によれば、伐採業者はこの地域を丸裸にしている。

 過去の伐採権に基づく丸太の流入は、盛況な木材の国境取引の成長を促している。木材会社は中国と国境を接するカチン州の細長い土地から丸太を運び出すため、中国側の高山地帯に道路を網の目のように張り巡らしている。この道路は、製材業を生業とする瑞麗(ルイリ)、盈江(インジャン)、騰衡(テンチョン)、福貢(フゴン)、ピマウ、パンワといった町を結んでおり、ピマウだけでも推定17軒の製材所がある。雲南省の国境の町パンワを最近訪れた人によれば、木材を積んだトラックが、ビルマ側から中国国境を越えてこの町に絶えず入ってきているという。国境を越えてきた木材は昆明(クンミン)付近まで、また遥か広州(広東省の省都)まで船で出荷されている。

 中国の木材に対する欲求は強く、需要は拡大しつつある。なかでも人口4千万人を抱え、過去数年間で推計7~10%のGDP成長率を示した雲南省ではそれが著しい。ブームに沸く雲南省の建設業はビルマ産木材への需要を創出している。ビルマ産の丸太は建物、ドア、窓枠、高級家具、フローリング、その他家庭用品の材料となっており、ピマウではまな板を作るのに使われている。

 中国国内の木材供給量は、揚子江上流で深刻な洪水が発生した1998年に、中国政府が国内12省での木材伐採を禁じたために減少した。2000年には、更に6省に禁止が拡大された。この措置が導入されて以来、中国は米国に次ぎ世界第2位の木材輸入国となった。伐採禁止によって、伐採業に従事する中国人数十万人が失業した。しかしカチン州での伐採は国境沿いの町それぞれに数千人の雇用を提供している。そして新しい伐採権によって、中国人伐採業者にはより多くの仕事が舞い込むことになるだろう。

 今年はKIOがビルマ政府と(訳注:1994年に)停戦協定を結んで7年目となる。新民主軍やカチン民主軍(KDA。訳注:KIOから91年に分派し、軍政と停戦した武装勢力。元はシャン州北東部のKIA第4旅団)と異なり、KIOは「法の枠内に復帰」したわけではない。KIOによれば、停戦の目的は政治的な手段を用い、ビルマ政府との交渉を通して政治的対立を解決することにある。SPDCはKIOに対し、現政権は暫定的な軍事政権であり、政治的な協定を行う権利は一切ないとし、国民会議が新憲法を起草し、新政府が樹立されるまで待つようにと説明している。

 停戦によってカチン州内の流血の惨事は停止している。長年に渡る内戦は地元住民に多大な被害を与えてきたが、民間人の移動は以前よりも自由になり、農民は狙撃を恐れながら農作業をする必要もなくなった。内戦が続いている間、村人たちは安全のために都市や大きな町へと避難するか、小集団に分かれて、うっそうとしたジャングルの山岳地帯の奥へと移動するかしていた。あるカチン人消息筋は次のように話している。「停戦の前、私たちは森の中に逃げ込んでおり、村も家畜も破壊されました。しかし今では人々はもう一度自分たちの将来について考えることができるようになりました。一つの村に長期的に住むことができるようになり、将来を見据えた農作業の計画が立てられるようになったのです。医療サービスが以前よりも容易に受けられるようになったこともメリットの一つです。これは非常に重要なことです。」

 カチン州は非常に開発の遅れた地域である。孤立した辺境地域に生活する人々が多く、交通手段や通信手段の欠如が、この州が天然資源に恵まれた地域であるという事実とは裏腹に、この地域で開発を行う上での巨大な障害となっている。内戦期間中は、すべての当事者が、チーク、ヒスイ、金などの天然資源の開発によって戦費の大部分を調達していた。しかし反政府武装勢力がビルマ政府との停戦協定に調印して以降、カチン州での環境破壊の規模とスピードは劇的に速まっているのである。

 停戦後のKIOは、組織の収入の大部分を占めていたパーカンヒスイ鉱山の支配権を失った。現在は中国、香港、シンガポールの企業が、ビルマ政府から採掘権を得て採掘を行っている。KIOの現在の主な収入源は森林伐採である。「KIO指導部は伐採が良くないことは知っていますが、唯一の収入源なのです。私たちの森は将来丸裸になり、天然資源は尽きてしまうでしょう。これが停戦の悪い面です」とこのカチン人は話している。

 契約条項によれば、カチン・ヒスイ社とこの中国企業は伐採権を下請けに販売し、そこから莫大な利益を得ることができる。タイ在住の外国人アナリストは「短期的に見れば利益を得る人はいるものの、長期的には全員が損をすることになる」と語っている。

 KIO内部には、停戦協定調印後の政治的進展が目に見える形でまったく表れていないことに対する不満が表面化している。KIO指導部の一部は、人々の間に苛立ちがあることを認めている。彼らによれば、問題の一部は革命の開始(訳注:1961年のKIOによる独立闘争の開始のこと。60年のカチン州と雲南省を巡る中緬国境確定時のカチン側への説明不足を背景に、当時のヌ首相が61年4月の選挙を前に仏教国教化を公約としたことを直接のきっかけとして、同年2月にゾーセンを司令官としてKIAが設立された)以来、指導部がKIOを軍事的に指導してきたことに由来するという。現在戦闘は停止したものの、指導部は新しい状況に対応できず、指導方法を変えることもできないでいる。この硬直性が、KIO指導部の若年層に不満を生じさせている。

 またこのKIO筋は、国家レベルで政治的進展が見られないことを指摘し、障害となっているのはラングーンであって、パジャオ(KIO本部の所在地)ではないという。「SPDCは国民会議で憲法を仕上げることもできなければ、アウンサンスーチーとの合意形成もできていない。彼らが民族問題を解決するのは不可能だ」としている。

 KIO筋はまた、停戦後にビルマ軍はカチン州に駐留する大隊の数を大幅に増やしているという。「SPDCが平和を求めており、対話による政治問題の解決を目指しているというのなら、なぜ我々の土地に大量のビルマ兵を送り込む必要があるのか」と、ミッチーナ出身のカチン人男性。

 ある50歳代のカチン人男性は、「国境地帯開発という名前がついてはいるが、彼らが実際にやっているのは環境全体の破壊なのだ」と話している。
(了)

※この記事には、イラワディ編集部のアウンゾーが一部補筆した。

(箱田 徹 訳。なお地名のカナ表記については田辺寿夫さんにご協力いただきました。)

出典:John S. Moncreif and Htun Myat, 'The War on Kachin Forests', Irrawaddy, vol. 9. No. 8, October -November 2001.