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経済・環境

タサンダム情報 世界水フォーラム版
2003年3月1日配信 ビルマ情報ネットワーク

 タイとビルマとが協力してサルウィン川にダムを架け、水力発電開発をしようという計画は以前からあり、建設候補地として数地点が挙げられていました。その中から、ビルマ・シャン州南部のタサン(予定ではダムの高さが188メートル、出力は3600メガワット)、そしてタイ・ビルマ国境上の数地点(実際に開発されるのが一地点にしぼられるか、複数地点になるのかは不明。開発される可能性が高いと見られるウェイジ地点では、ダムの高さ168メートル、出力4540メガワットとなる予定)が、2002年の後半から開発に向けて動き出しました。タサンについてはタイのMDX社、国境上の地点についてはタイの発電公社(EGAT)が、それぞれ開発に意欲的であるとされています。

 大型ダム建設が周辺地域に及ぼす悪影響(生態系の破壊、居住地域の水没など)については、世界ダム委員会の報告書などですでによく知られているところです。ビルマではこうした悪影響に加え、開発事業の実施地域一帯に警備を口実に国軍部隊が展開するケースが多く、周辺住民がさらに苦しむことになります。多数派民族のビルマ族以外の民族が住む地域では特に、建設前に住民が事業地周辺から無償で立ち退きを強いられ、軍が管理しやすい場所に再定住させられる事態が数多く発生しています。軍は住民に強制労働をさせて事業を進めることもあります。施設の周辺には地雷がしかけられることも珍しくありません。大規模開発事業の例として、ビルマ南部のヤダナ・ガスパイプラインの建設では、増強された駐留部隊のための周辺住民が住居を建てたり、何日も部隊に同行して軍事物資を運んだりさせられました。労働や物資の提供は無償で、労働中の食料や水などは自分で準備していかなければなりませんでした。休みはほとんどなく、しばしば暴力を振るわれていました。

 タサンダム建設予定地は、ビルマの代表的な民族の一つシャン人が人口の6割を占めるシャン州にあります。同州を南北に流れるサルウィン川の西岸では、90年代後半に大規模な強制移住が行われました。シャン・ヘラルド・ニュースによれば、2003年1月18日にシャン州モントンの第65軽歩兵部隊の司令部で会合があり、タサンダム建設に関連して現地入りするタイ人関係者のための警備体制を整えよとの命令が、地区に駐留する部隊に伝えられました。ダムの本格的な建設が始まり軍の警備体制が強化されれば、状況がさらに悪化する可能性が多分にあります。ウェイジダム建設予定地のビルマ側は、カレン人の多く住むカレン州にあります。ここも建設が決定すれば住民の強制移住、駐留する軍のための強制労働などが起きる可能性が多分にあります。

 2002年12月には、ダム建設に反対するNGOなど70近くの団体が、タイ議会の上院外交委員会に対して「ビルマに民主主義が実現し、建設現場周辺の住民の権利が尊重されるようになるまで」ダム建設をしないように求める請願書を提出しました。請願書には、建設反対の理由として次の事項が挙げられています。

・タイは40%もの電力供給過剰の状態にあるが、さらなるダム建設によって生産される電力が本当に必要なのか、調査が行われていない。中でもタサンダムは、建設予定地が地震発生地域にあるなど様々なリスクを抱えているが、タイ国民がこれらのリスクを負うことになる。
・世界ダム委員会は「ダムによる水力発電は持続不可能であり、ダムには隠れたコストが多々かかる」と報告している。
・非常に豊かな水生態系を破壊し、気候変動や洪水などの環境危機を悪化させる恐れがある。タサンダムの水没予定地域では既に森林(特にチーク材)の伐採が始まっている。建設再開によって伐採地域がさらに広がる恐れがある。
・ビルマ国内にあるタサンダム建設予定地周辺では、駐留するビルマ国軍の部隊が急増した。この1年で歩兵部隊の数が6隊も増え、現在は少なくとも17の歩兵部隊が駐留している。
・建設予定地域の住民に対して、駐留するビルマ国軍による様々な人権侵害が起きている。1996年から98年にかけては、軍の進出に伴って数十万人もの住民が強制移住させられた。また強制労働、強かん、超法規的処刑、市民権のはく奪などが今も続いている。市民権をはく奪されると、土地の補償などを受けられなくなる。
・ダム建設が再開すれば、ビルマ側で軍から迫害を受けたり生計を失ったりした人々が大量にタイに流入することが予想される。

 この請願を受けて、上院外交委員会のクライサック委員長はMDXなどに対し、ダム建設予定地域での人権侵害状況が悪化する恐れがあることなどを理由に、建設に関する覚書の交換を取りやめるよう呼びかけました。しかし、12月20日にはビルマ軍事政権とMDXとの間で、タサンダムの建設に関する覚書が交換されました。EGATも2003年2月に上院外交委員会に報告書を提出し、サルウィン川開発がいかに将来性のあるものであるかを訴えた模様です。