トップページ >  ビルマの現状:政治 >  社会 >  アウンサン・スーチー単独会見 「日本政府はODAで誰が恩恵を受けたのか、分析すべきです」

社会

アウンサン・スーチー単独会見 「日本政府はODAで誰が恩恵を受けたのか、分析すべきです」
1996年2月16日配信 週刊金曜日1996年2月16日号

アウンサン・スーチー単独会見 
「日本政府はODAで誰が恩恵を受けたのか、分析すべきです」
(週刊金曜日1996年2月16日号掲載)
写真・文 山本宗補(フォトジャーナリスト)

ビルマ(ミャンマー)民主化運動のリーダー、アウンサン・スーチーさんが、六年間の自宅軟禁
から解放されてから早くも七ヵ月。果たしてビルマは民主化に向けて加速しているのだろうか。
昨年七月の解放直後にアウンサン・スーチーさんの単独インタビューをしたフォトジャーナリスト
の山本宗補が、再び単独インタビューをし、最近のビルマ事情を折り混ぜながら報告する。

この間の動きを簡単に振り返るために、反政府組織中最大のカレン民族同盟(KNU)の
ボーミャ議長の見解を引用したい。最近の全体的な流れが言い尽されているといえるからだ。

「スーチーさんの解放後は、軍事政権(SLORC=国家法秩序回復評議会)が得をしているだけ
だ。投資家が殺到し、ODAは再開され、問題の型がついたと観光客が来つつある。解放後の
彼女はチャンスを与えられていない」

昨年一一月のスーチーさん率いる国民民主連盟(NLD)による国民会議ボイコットは、支持者
からは圧倒的に歓迎された。しかし軍事政権は対抗措置として、NLDを国民会議から除名し、
憲法草案作りは軍政のスケジュールどおり進行している。

昨年末に対ビルマ国連決議が採択されたが、国際社会の口先だけの圧力はNLD幹部の期待
を裏切る内容だった。国連決議が拷問、強制労働、裁判なき処刑などの人権侵害の即時停止、
早期民政移管を軍事政権に強く促したものの、武器禁輸や経済制裁などの制裁措置には言及
されなかったためだ。決議が軍事政権に促すスーチーさんと少数民族代表などを交えた早期
対話が始まる気配はない。

多民族国家ビルマの将来の和平を左右する少数民族の処遇について、軍事政権は少数民族
を懐柔するために、圧倒的な武力をちらつかせ、ビジネスチャンスと国境開発を約束するという
アメとムチの両刀使いで、政治的要求は無視してきた。このため少数民族の不満は高く、カレニ
民族進歩党(KNPP)との停戦協定は三ヵ月で破綻し、昨年末から再び激しい戦闘状態にある。
アウンタンレーKNPP首相は「(停戦協定は)間違いだった。軍政は誠実さを示す代わりに攻撃
してきた」と私に軍政不信を露にした。

KNUのボーミャ議長は、「政治問題抜きの話し合いと停戦交渉は別にはできない。KNUが降伏
することはありえない」と明言したが、昨年一二月に開始されたばかりの和平交渉は進展して
いないようだ。

理性の出会いによる解決を

--国境地帯の反政府ビルマ学生組織のある医師は、スーチーさんにこう聞きたいといってい
ました「対話かそれとも完全なる荒廃か」というあなたの解放直後の発言の真意は何かと。

アウンサン・スーチー(以下AS) 対話によって政治的解決策を求めるつもりのない国家を
ごらんなさい、国家は分裂するのが常です国民はひどく苦しみ、国家は計り知れない困難に
直面しています。武力による解決ではなく、理性の出会いによる解決でなければなりません。

--彼が知りたいのは、第二の「1988」が避けられないのかという点ですが。
AS 必要とも不可避だともいっていませんよ。何事も必然的であるというのは私の考えでは
ありませんから。

--次のステップは何ですか。
AS 次のステップが何かということについては、私もNLDも話すつもりはありません。やるべき
ことをやるだけです。

--国民会議のガイドラインの、国軍の政治における指導的役割や立法議会の二五パーセン
トは国軍兵という点ですが、妥協する用意はあるのですか。

AS 繰り返し言ってきたことですが、対話では何について話し合い何については話し合わないと
いうことは前もって討議しません。心を開いた状態で対話に臨むということですよ。

--国連決議をどうみますか。
AS 良い決議だと思います。国民会議は自由な討議を許さず、選出議員が参加できないという
事実を特に指摘していますから。国民会議がどんなものか国連決議で取り上げられるのは今回
が初めてです。決議は私とSLORCと少数民族グループとの対話をも強く働きかけています。

--ただ、国連決議には当事国に何の拘束力もありませんが。
AS これまでに決議内容を当事国政府に強要できたケースはありませんよ。短期的には
ノーですが、長期的には必ず効果がありました。パレスチナ問題でも南ア問題でも、人々は
国連決議は何の効果もないとこぼしてきましたが、最終的には効果をあげたわけです。

--ビルマ民主化について、ビルマの国民は一〇年、二〇年も待たないといけないということ
ですか.。

AS そうは言っていません。私が言いたいのは、国連決議が採択されたといっても、それによっ
て今すぐに変化が現われることではないという意味です。

--軍事政権の少数民族武装組織に対する停戦政策をどう見ますかAS 停戦は、一時的な
ものにすぎません。恒久的な和平は政治的解決によってのみもたらされます--八八年から
少数民族への医療活動に従事している別の学生医師はこういっていました。「少数民族の声に
耳を傾けてください。スーチーさんとSLORCとの対話だけでは完全とはいえません」

AS 私たちも全く同じ考えです

--政府は少数民族の要求を無視していますが。

AS 永遠に無視することはできないでしょう。当局が強固な連邦国家の建設を本当に望むなら
ば、少数民族の意見に耳を傾けなければならないからです。

--KNUは政治的問題を話し合う機会のないままSLORCと停戦合意をするべきだと思い
ますか。

AS 私は話し合いを信じます。KNUとSLORCがどのような合意に達しようとも、それは完全に
両者の責任です。我々の立場は、撃ち合うよりも話し合うほうが正しい方法だというものです。

--八八年以来カレン族の取材をしてきて思うのですが、彼らが信頼できるのはあなたをおい
て他には誰もいません。

AS それが問題なのです。ビルマの主要な問題は信頼の欠如ですそれは少数民族とビルマ
族間の信頼の欠如ということに限らず、ビルマ人グループ間でさえもです。政府も国民もお互い
を信頼しているとは思えません。全土に信頼の欠如があるのです。この現状を変えられなけれ
ば、この国は決して発展しません。我が国の抱えるとても大きな不幸です。

[軍事政権は、一月に麻薬王クンサーと「密約」し、クンサー配下のシャン軍の「降伏」で、余剰
兵力をKNPPとKNUに向け、武力でねじ伏せる姿勢を見せている]

日本の人々はもう少し理想的に

日本政府のODAについては、スーチーさんは解放直後から、ODAの再開は早すぎると苦言を呈していた。日本政府・外務省は「民主化を促進する狙い」で、一六億五〇〇〇万円の無償援助をラングーン看護大学増設案件に対して供与した。これは新規無償援助で、スーチーさん解放直後に表明されたものだ。少数民族との和解を評価し、昨年の三月に実施された、総額一〇億円の「食料増産」無償援助と合わせると二六億円を越える。ちなみに、これら二件の無償援助は、日本商社各社が受注する仕組みになっている。

四八億円の円借款の再開も報じられたが、これはラングーン市内配電網整備が対象で、八八年以来凍結されてきた円借款プロジェクトのひとつ。だが、この案件は一二月に出された
アメリカ政府の軍政非難声明を考慮してか、九五年度中の実施は棚上げされているようだ。

ここで注目しなければならないのは、日本政府が軍政の対少数民族懐柔策に積極的に手を貸している点だろう。その一貫で、停戦中のカチン族、ワ族、モン族の各少数民族地域四ヵ所で、無償で一件一〇〇〇万円の学校を三月までに贈与する見込みだ。

財政難をやりくりして辺境の経済開発に全力をあげていると強調する軍事政権だが、実は最低数十億円はするとみられる戦闘機などの武器をロシアから購入する契約をしていたことが明るみにでたばかり。見方を変えると、日本政府の無償援助に見合う外貨を、軍事政権は武器購入に気軽に充てられるということだ。

--日本政府のODAについての考えをお聞かせください。
AS 早すぎるというのが私たちの見解です。そうした援助が果たして人々の助けになるのかお尋ねしたい。たとえば、看護学校の件ですが、誰が建物の建設を受注し、誰が看護学校
スタッフの選出をし、生徒はどのようにリクルートされ、ビルマ国民のために奉仕する保証があるのかということ。もしかしたら、卒業生は医療費の高い私営看護施設の職や、給料の良い外国での職を見つけるかもしれない。ですから、日本の皆さんに考えていただきたいのは、この援助がビルマ人全般への支援となるのか、それとも一部の特権階級により一層の特権を与えることとなるのかということです。

--日本政府はビルマに対してこれまでに累計五二〇〇億円をこえる経済援助を行なってきましたが、その莫大な援助はビルマに貢献してきたと思われますか。

AS 日本政府はそうした援助のもたらした結果、つまり誰が恩恵を受けたのかを詳細に分析した報告書を作成するべきです。

--日本からの莫大な経済援助はあまり貢献しなかったのではと。
AS どのような結果をもたらしたのか、あなたに聞いているんですよ。ビルマの庶民に貢献したのかどうか答えてください。私たちは知りたいんです。

--最後の質問ですが、日本の支持者にメッセージは。
AS とにかく感謝したい。ビルマ情勢を今後も関心を持ち注意深く見守ってほしいことと、ODAがビルマ人全般の助けとなったのか、それとも特権層だけに貢献したのかを調べてほしい。民主国家に属しているのですからあらゆる方法で我々を支援してください。

家の前で行なわれるスーチーさんの週末スピーチは、毎週の土、日曜日の午後に定着し、四〇〇〇人前後の支持者が詰めかける。一方で軍政による官製メディアを動員したスーチー
さんに対する個人攻撃はエスカレート。事あるごとにNLD関係者を逮捕するかたちで、NLDと国民への圧力は確実に高まっている。

しかし、スーチーさんの週末スピーチが軍事政権にとっては格好の「ガス抜き」効果を持つ側面もある。人々はスーチーさんの元気そうな顔を見、声を聞いて幸せな気分に浸って家路につくが、軍政批判はスーチーさんまかせだ。生活に追われ、権力に従順な支持者ばかりでは、スーチーさんには手足を縛られたようなもの。対話を待つだけで、週末スピーチの他には打つ手がないのが現実。

日本企業のラングーン詣では、ODAの再開に伴い加速した。三月までに、外国企業との契約案件は二〇〇件、投資総額の累計は四五億ドルに達すると見られている日本の航空会社二社は一〇月に始まるビルマ観光年までに、ラングーンへの定期直航便を就航させる計画もある。

「ビルマ政治の流れを変えるのは、中国と日本政府次第。中国は武器弾薬の調達者で、日本は資金援助のトップだ」と言ったのはボーミャ議長だが、両国にとって人権や民主化が経済活動と同じウエートを占めるものではないのは確か。

別れ際に、「あなたは理想主義すぎる、時には独断的だという人もいますが」とスーチーさんに尋ねると、こう切り返された。

「私のアプローチは実際的ですよ時には日本の人々がもう少し理想的になる必要があるのでは。ビジネスライクになりすぎないようね」