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ビルマの麻薬汚染と軍事政権
2003年7月12日配信 社会新報

ビルマの麻薬汚染と軍事政権
社会新報
2003年7月12日
ジャーナリスト 菅原 秀

 アフガニスタンが麻薬生産地として世界第一であることは知られているが、タリバンが昨年、麻薬生産停止政策に転じた。その結果、ビルマ(ミャンマー)が再び世界一の生産地として浮上することになった。ビルマの麻薬密輸グループは、新種の覚せい剤を運び出し、汚染地域を世界に拡大しようとしている。ビルマでは誰が麻薬を作っているのか?世界に恐怖をもたらす麻薬の原産地の現状を分析してみた。

流入の大部分はビルマ産

 現在日本に流入する覚せい剤のほとんどが、タイ、ビルマ、ラオスの山岳地帯を結ぶ「黄金の三角地帯」で密造されたものである。
 九五年頃からは、これらの覚せい剤に新種が加わり始めた。化学物質で精製した「揺頭」(ヤオトウ)「ヤーバ」「ヤーマ」などと呼ばれるメタンフェタミン系錠剤である。注射によって摂取する従来の覚せい剤よりも抵抗が少ないので、若年層の間にじわじわと広がっている。
 警察庁は九十八年に「第三次覚せい剤乱用期」を宣言し、取締りを強化しているが、低年齢層の逮捕者数が激増しているという。
 いったん覚せい剤のとりこになった若者は、覚せい剤購入の費用を稼ぐために、売人(ばいにん)になる例が多い。ひとり分の覚せい剤を稼ぐためには六十人の顧客が必要と言う。覚せい剤は中毒者の精神を蝕むだけでなく、ネズミ算式に顧客を拡大する魔の商売でもある。そして、そのネズミ算の頂点には正体の見えない胴元が隠れており、巨万の富を得ているのである。
 麻薬による富は、決して表の世界に還元されることなく、悪を増強する組織に流れている。歴史が示しているように、国家が胴元になることもある。第二次大戦中に関東方面軍が麻薬の胴元として暗躍したことを、われわれは決して忘れてはいけない。

五十五カ所で製造

 アメリカの麻薬取締局の調査によればビルマ国内の二〇〇〇年のアヘンとヘロインの生産量は約千トンで、ピーク時の二千五百トン(九六年)より、大幅に減少している。しかし、ビルマ政府と停戦協定を結ぶワ人武装勢力を中心としたグループがビルマの国境地帯に多数のメタンフェタミン精製所を保有しており、製造された錠剤が近隣諸国に大量に密輸されている。実態は深刻になってきている。
 タイの麻薬取締当局は、精製所の大部分がビルマの山岳地帯にあり、約五十五の工場が稼動しており、年間五億錠のメタンフェタミンを製造していると推定している。
 タイのタクシン政権は、ビルマ政府を刺激しないように、麻薬精製所の問題には目をつぶっている。しかし現場を守るタイ第三軍や国境警備隊は自分たちの政府の弱腰に真っ向から反対し、現場での取締りを緩めようとしない。
 タイの人々のほとんどがビルマ政府が麻薬を生産していると信じ込んでいる。国境での麻薬にからんだ銃撃戦の背後には必ずビルマ軍がいるので、ビルマ軍が麻薬密売人を守っていると疑わざるを得ない状況証拠が多すぎるからだ。
 アメリカ政府も、ビルマ政府の麻薬への関与を強く疑っている。今年四月十二日に米国議会に提出された大統領府からの報告書にはこう記されている。
 「ビルマ政府が組織的に麻薬密売に関与しているとの証拠は一切ない。しかし官僚、特に辺境地域に駐留する腐敗した軍人が麻薬の生産と密輸に直接関与しているあるいは、麻薬取引を行う人物を庇護しているとの報告が、信頼できる筋から継続的に寄せられている。またビルマ政府は停戦協定を結んだ少数民族ゲリラに対し、麻薬生産と密輸を削減するよう支援してはいるものの、一般的に言えば、こうした勢力に対する直接行動を取ることはなかった。こうした一般的なやり方の唯一の例外は、二〇〇〇年十一月、政府がモンコー防衛軍の支配地域を占領し、指導者のモンサーラーを麻薬密売容疑で逮捕したことである。米国はビルマの現在の麻薬対策に向けた努力が、国内問題の規模に見合うものだとは考えていない」
 つまり、ビルマ政府は麻薬取締りをしているといっているものの、目に見える直接行動は一回しかやっていないので「極めて不審である」というのがアメリカ政府の公式見解である。

ビルマ政府との関係

 ビルマ政府と麻薬との関係を物語る明確な証拠は、国内の大手企業が麻薬の資金によって支えられているという事実である。
 元麻薬王ロー・シンハンはアジア・ワールドというコングロマリットの会長である。アメリカの指名手配を逃れて、ヤンゴンに豪邸を構え、ビルマ軍事政権の幹部達と親交を結んでいる。ビルマ国内のホテル、建設会社、スーパーマーケットなどを経営し、総投資額は六億ドルといわれる。ビルマの国家予算が十八億ドル程度なので、その富の巨大さが想像できる。すべて麻薬によって得られた富なのである。
 また九六年にビルマ軍に投降した有名な麻薬王クンサーもビルマ政府によってヤンゴン市内にかくまわれている。クンサーはビルマ政府から長距離バス会社経営の許可や、ミャワディのカジノ運営の許可などを与えられ、活発な経済活動を続けている。また、ビルマ政府の求めに応じてハイウェイの建設資金を提供している。
 さらにワ軍の元司令官だったウェイ・シャオガンは、ビルマの闇将軍と言われるネウィンの娘、サンダウィンと組んで、ヤンゴン航空、メイフラワー銀行などの経営に麻薬資金をつぎ込んでおり、宝石取引にも手を出している。
 つまり、ビルマ政府は麻薬王たちと手を結び、その豊富な資金によって、航空会社、ホテル、銀行などの基幹産業を成立させているのである。

ビルマは麻薬を取締れるか

 もちろんビルマの基幹産業を支える麻薬資金は、近隣諸国の金融機関によるマネーロンダリングを経て、ビルマに還流されている。おそらく麻薬王たちとの関係をビルマ政府に問いただせば、これらの投資は麻薬とは直接関係がないと言うであろう。
 長年にわたる軍政の経済政策の失敗で、アジアでは最も貧困な国になってしまったビルマが、諸外国並みに航空会社やホテルを所有するためには、巨万の富を持っている麻薬王たちの助けを求めるしかないと言うのも、皮肉な事実である。
 麻薬王のクンサーは現役の麻薬取引からは完全に足を洗っていると思われるが、ロー・シンハンとウェイ・シャオガンは現在に至っても、広大なケシ畑を所有していると思われる。
 こうした人物を逮捕せずに、ビジネス界の重鎮として保護しているビルマ軍事政権が、本気で麻薬を取締ることが出来るのかどうか、強い疑いを持たざるを得ない。

外交官招き焼却ショー

 ビルマ軍事政権SPDC(国家平和発展評議会)は、年に何回かヤンゴン駐在の外交官を招いて、麻薬撲滅キャンペーンを行い、押収した一トンにも上る麻薬を広場で焼却すると言うデモンストレーションを行っている。
 アメリカや日本の年間押収量にも匹敵する麻薬の山が炎に包まれる場面を見て、外交団は度肝を抜かれ、ビルマ政府は真剣に麻薬撲滅を行っているという広報活動に手を貸すことになる。果たしてそうなのであろうか。
 ビルマ政府は「われわれはカレン民族連合を除いたすべての少数民族武装勢力と停戦協定を結んでいる」と何度も言明しているが、これはまったく事実とは異なる。シャン州軍、カレンニー民族進歩党などは、ビルマ軍との停戦にはまったく応じていないし、表面上停戦協定をしている武装各派は、ビルマ軍による全面支配を恐れて、いまだに軍備を保持している。また、アラカン州やインドとの国境には、国際社会に知られていない武装勢力がいくつかある。
 そうした不安定な状態の中で、最近ビルマ軍と蜜月状態なのが、ワ州軍と民主カイン仏教徒軍である。
 ワ人は中国語を話す素朴な民族で、蒋介石軍が持ち込んだケシ栽培で生計を立ててきた。山岳地帯のやせた土地で自分たちをビルマ軍による侵略から守るために、ケシに手をつけてしまったのである。ケシによる利益を軍備にまわし、自分たちの領土を守るために中国人民軍顧問を雇い、一万人規模の重装備による軍隊を保有し、ビルマ軍と対峙してきた。
 しかし、クンサーの投降や、元ワ軍南部司令官だったウェイ・シャオガンなどのビルマ政府への寝返りで、軍備による領土保全に無理が生じるようになってきた。さらに、麻薬を敵視するアメリカ軍とタイ軍が協力して、黄金の三角地帯でのコブラゴールド演習を継続し始めた。脅威を感じたワ軍はビルマ軍に急接近した。その結果、ワ人社会は昨年頃から全面的にビルマ軍の保護を受けることになった。
 国境付近に住んでいるワ人は、メタンフェタミン精製所から運んだ錠剤をさばくために、頻繁に麻薬バイヤーと接触している。
 このワ人たちの麻薬取引を阻止するために、タイ第三軍に加えて、ビルマ国内の武装組織であるシャン州軍とカレン民族連合軍が、取引現場を見つけると、遠慮がちに銃撃戦を加えている。彼らは、ビルマ軍には容赦はしないが、ワ人を傷つけたくないのである。同様にワ軍もシャン軍やカレン軍とは戦いたくないので、応戦には迫力がない。
 シャン州軍の場合は、自分たちが麻薬に関与していないことを証明するために、銃撃戦で押収した麻薬をタイ取締当局に引き渡している。

取引現場に軍の影

 問題なのは、麻薬取締り現場に頻繁にビルマ軍が出没し、麻薬密売人を襲撃するこれらのグループに応戦していることである。
 ワ軍とビルマ軍が共同で行動しながら、麻薬精製所付近を転戦していることから、タイの麻薬当局や少数民族グループは、ビルマ軍が麻薬取引を支援していると考えている。
 従って、ラングーンで行われている麻薬焼却ショーはタイ麻薬当局や、少数民族からすれば「まやかし」としか映らない。
 しかし、ビルマ軍事政権は、「麻薬の取引をしているのは、タイの売人である。われわれは真剣に麻薬撲滅行動をしているが、国際社会がそれを支援しようとしない」と主張し続けている。
 ビルマ軍は、最近ロシアからミグ戦闘機十機を購入した。今年に入ってタイ空軍は、タイ領に進入したビルマ軍とワ軍を撃退するために、三回ほどF16をスクランブル発進させている。それに対する対抗手段のなかったビルマ軍にとって、ジェット爆撃機は喉から手が出るほど欲しいものだった。ロシアの航空会社が九〇年代半ばに製造し、売れ残っていたミグ29型戦闘機十機を百五十億円の格安料金で入手したものだ。
 国家予算が二千億円にも満たない国にとっては、極めて高い買い物なのだが、麻薬の経済利権を守るために使って欲しくないものである。
 ビルマ政府が麻薬と関与していないことを証明するためには、麻薬売却ショーでなく、自分たちがかくまっている麻薬王たちを国際社会に引き渡し、その資産を凍結すべきであろう。それができない限りは、この国は麻薬で成り立っているという国際社会からの批判は、まぬがれないであろう。(了)